ピエロと玩具と幽霊船

ピエロと玩具と幽霊船

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いつもどこへ行くかを気にして
風景なんて見ていなかった
よく見えている時ほど
見落とすことは多くて
上り坂ばかりを選べば
道は正しいと思っていた

どこへ行くかより
どこにいるのかを
知らせなければ

便りは永遠に来ないこと
声はどこにも届かないこと

言葉にすれば単純なこと

善悪パラドックス

対義語の上を歩いてみても
自分の軸からは外れられない
自分の頑固さに気がつく秋晴れ

とりつくろって
おもねる日々も
多分嘘は無くて
無くしたのは私

常に罪悪感を持って
安心の材料にしていた
私は私を悪人であると
思うことが善であると

嵐の中の逆走を生業として
笑っていた

去年迄の私へ

ピエロと玩具と幽霊船

幽霊船にピエロが一人
持ち込んだものは
おもちゃ箱

ゼンマイ式のおもちゃが鳴って
幽霊たちは見物に来る
これは珍しいと騒いで
冷たい海に笑いが響く
ピエロが曲芸を見せて
幽霊たちはまた笑う

航海日誌には涙の跡
自由だけが欲しかった日々の終わり

ピエロの曲芸は終わる
彷徨う日々も終わる

会いに来るいつかに

光線が届く日は
飛行船が飛び立つ
その光源に会いに行く為に

人類は移動をはじめる
ゆっくりと路線を変えて
遠くにいる知らない誰かに
何かを知らせに安全圏から脱出

洞窟の中で絵を描いた
何気ない日常を
誰かが読む日が
やがて来ること
あの日は思いもしなかった

時間を超えて会いに来た人へ

ノスタルジック元年

古代文字なら
神との交信も可能らしくて
通信機器は古代文字だらけ
読めない文字で繋がるのが
ノスタルジックだって流行り

意識だけで繋がるよりも
文字にしたら珍しくって
みんなの中で目立てるって
みんな一斉に同じことをした

不可思議な文化の出来上がり
二千年代も終わる、平凡の日に

SF遠足日

そんな宇宙で遊びたい
毎日通う銀河系動物園
土星の輪の上を何周もして
惑星を追いかけてたどり着く
銀河の果ての水族館でお弁当
違う星の生命体とおかず交換
そんな宇宙で遊びたい
スクールバスの中の宇宙
周りの子たちの声が
衛星からの信号に変わる頃
地球の学校に到着する今日

原始機関に休みは無く

言葉は積み重なり
歯車になって回る

精密な生きる機器
言語は人類の原始機械

人類の歴史と共に
回り続けて来た

言葉は精巧である
言葉は正確である

後にあの操作は誤りであったと
人類の釈明があろうとも、
言葉はずっと壊れなかった
歯車が止まる日は来なかった

風が吹くから

回り続ける風車
好転する日の
風向きを見て
子供たちは島を出る
大人たちは漁に出る

見守り続ける風車

風鈴の音が鳴って
海の音は島を覆う

瞳の中に焼き付ける
回り続ける風車と
この島の青い記憶

何歳になっても
忘れられない風景が
向かい風に逆らわない
しなやかさに変わって

かわいい子には

かわいい子は既に旅に出た
何も言われなくても
心臓の方位磁石通り
あの子にしかわからない
そんな旅に出て行った

情報が人間を超えた気がしても
着たい服がわかっているなら
まだ溺れてはいないらしい

なんだか窮屈だと感じるなら
助かる道は無数にあって

今日も旅に出る
誰かのかわいい子

誰かが居る私の中身

私の中の誰かの記憶が
ただひとつのことから連鎖して
知らない街並みを見せてくれる

私は私としてひとつではない
今日も幾重にも旅をしていた
屋根の上
寝床の上
丘の上
木の上
どこにでも私はいる

視点は万華鏡のように
この世界の実体を
綺麗に複雑に見せて
その中へ私を隠している

沈んで、浮かんで

魔法が解ける時
目が覚める時
退屈を消して
何かをおろして
何かを脱いで
身軽になって
暗い朝に備えた

今日の私に聞きながら
今日の色を決めながら

寒空ひとつ
浮かんでいる

浮かれる心は
在っただろうか

心はひとつ
その声を拾って

何処からか来た書物

奇書を集めて
パラレルへ行く日
本は息を吹き返す
地図は偽物だった
途方に暮れたまま
知らない世界に着いて
傘をさして歩いている
雨は降っていないけれど
そうしたくて仕方なかった

すれ違う人たちはモノクロ
私だけ色が付いていて、
足元も存在も浮いていて、

映写する誰かの指輪

宝石の中で息をしていた
物語は夜空に映し出される
指輪の形をした映写機は
衛星の鼓動に合わせて
隠されてきた事を語り始める

朝が来ても
天の川は流れている
冷たい牛乳を注いで
今朝に捧げている人たち

新しい儀式が行事が次々と生まれて
私たちの暦はやかましくなっていく

宇宙に浮かぶ卵

惑星はひとつの卵である
太陽にあたためられて
惑星を割って生まれる
たくさんの天使たちは
卵の上の生命を抱いて
白い光を放ちながら
宇宙を飛んでいる

失くされた想い

石に刻んだ渾身の想いも
一輪の花の前に結ばれず
その日は葡萄酒を何杯も飲み
森の中で喚いて泣いて眠った

虚しさが月を呼んで
哀れな人間を照らす
月の心は届くことなく

やがて、

月明かりは太陽に掻き消され
目覚めた時には日差しだけを
その肌に心に馴染ませていた

トルティーヤ

トルティーヤにまるめて
かぶりついたものたち
知らないスパイスが
口の中で弾けた日
何もかも花火に
燃えて咲け
全部、
全部、

解答済みの問題

解かれた問題は忘れ去られ
机の引き出しの奥
役目を終えた晩年
無限にある問題
答えがあると
信じて生きて

間違っていても
誰も直してはくれない
赤い文字を懐かしみながら

赤線のない道の上で
フリーハンドで引く線
正解も間違いも無いから
自由と不安のペダルを踏む

いつでも落ちて

休まないのは
私の心か頭か
わからない

考えなくていいことが
勝手に映し出されて
感じたく無いことが
勝手に再現されて

使い勝手の悪い器
私は静かに落ちていく
私は下降することに
慣れるほか無かった

偽書が見た夢

おもちゃの国の街並みは
本物よりも本物に見えて
私の体はだんだんと
おもちゃに近づいて
クマのぬいぐるみと
太鼓を叩いて遊んで
私の財布は飴玉で膨れた

真珠みたいな夕日を見て
エメラルドの朝日を見て

全部仮想の旅だと知って
この紀行文は綴られて
図書館の奥で音が鳴る

寂しい紫を眺めて

パピルスに書かれた
いつかの地図を見て
その通りに歩きながら
パンと酒を買って
月と紫の空を見て
遠い遠いあの子と
更新をはじめる

向こうは三日月らしくて
その日はお祭りのようで
なんだか賑やかだった

私の頭上には満月が
今にも落ちてきそう
寂しい晩酌、こちらは静かです

ピエロと玩具と幽霊船

ピエロと玩具と幽霊船

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • ミステリー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-11-20

Copyrighted
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  1. 現在地検索
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  4. 会いに来るいつかに
  5. ノスタルジック元年
  6. SF遠足日
  7. 原始機関に休みは無く
  8. 風が吹くから
  9. かわいい子には
  10. 誰かが居る私の中身
  11. 沈んで、浮かんで
  12. 何処からか来た書物
  13. 映写する誰かの指輪
  14. 宇宙に浮かぶ卵
  15. 失くされた想い
  16. トルティーヤ
  17. 解答済みの問題
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  19. 偽書が見た夢
  20. 寂しい紫を眺めて