独白

 六時になったら、いちど、目をとじる。あけて、月がみえたら、すこしだけ泣こうと思って、でも、泣こうと思うと、泣けないものだと知る。手を、にぎってくれていたひと、わらって、はなれて、なにもなかったみたいに、ぼくのことを、わすれる。そのひとにとっては、わすれるのではなく、ぼく、は、はじめからなかった記憶となる。草木の陰で、うたたねをしている、こども。あたたかく、やわらかった、ぼくの一部が、削ぎ落されていく。呼吸に色をつける。空になまえをつける。海に愛をささげる。森をうやまう。いちばん星、という光が、気が遠くなるほどの、宇宙のどこかで、ぼくらに示す。存在証明として。ノアの声がきこえて、夜が深まって、月星が夜色のスクリーンでまたたいて、みんながこの世界のどこかで、つねに、たいせつなだれかを想って生きているのかもしれない、と思うと、わすれられたぼくは、やりきれない。さびしい、という感情をつくったひと(ひと?)がいたとして、どんなひと(もしくは、神さま?)かは不明だけれど。ごめん。ときどき、うらんでいる。

独白

独白

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-11-19

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