しがらみ
レモンティーの甘酸っぱさに、くらくらする。午後の、三時の、迷い子たちの、静かなる合唱。エメラルドグリーンの瞳をした、お人形の、真っ白な脚が、片方抜け落ちた瞬間に、一瞬、刹那、世界は、しんだ。
しろくまが焼いた、ホットケーキに、バターをひとかけ溶かす頃には、太陽の光はやわらかくなって、やさしくなって、ふんわりとつつみこまれている気分になって、ぼくの涙腺は、かんたんにゆるむ。他人、という、じぶんとおなじ構成でできている、いきものでありながら、個体の性質は明らかに異なる、ものとの、すこしのずれに、ざわめいて、波風が立ち、揺らぐ小舟のうえで、おっこちないよう、必死になって、たえる。そういう感覚が、日々の、人間関係のなかで、積み重なる、むやみやたらに、おおきさのちがう小石を積まれて、いずれはバランスをくずし、こわれるものだ。にんげんとは。意外と、あっけなく、だめになってしまうんだねと、しろくまは、しみじみと言う。ぼくのあたまをひと撫でし、さあ、おたべ、と、ホットケーキをさしだす。しみこんだバターと、たっぷりのメープルシロップで、つやめく、こはく色の表面。
ぼくは知っているのだけれど、あのひとたちも、所詮は、にんげんであり、ひとりのにんげんであり、聖なる存在ではなく、きれいなものでもなく、心の底からやさしいわけでもなく、いちにんげんとして、いらだち、不安になり、あせり、狂うのだと想うと、ゆるしてあげてもいいような気がしてくる。
ホットケーキをたべて、レモンティーをのんで、しろくまとキスをして、ああ、わすれてあげてもいいかなと思って、それで、あしたになったら、もう、あのひとたちのことなど、どうでもよくなっているのだ。
しがらみ