古代回線

雪水 雪技

古代回線

いつかのデッサン

光も届かないほど遠くて
触れられるほどに近くて
一番持て余している自我
鏡に映る顔を疑い出して
白い紙に黒い鉛筆で描く
その線は迷っているから
全体的にぼやけてしまう
知覚している私も曖昧で
人が生きる場所に居ても
いつも何処かに出掛ける

引き出しの奥に仕舞って
私を大切にしながら

工作まみれのごっこ遊び

青いカルタの絵柄
赤いトランプの絵柄
交互に並べて畳の上
模様を作って遊ぶ手

仏間に置きっぱなしの
おさげの人形を迎えに
襖を開ければ冷たい風

遊びの後は片付けない
何故ならそれが作品だから

何も無い部屋に
楽しんだ証拠
アリバイ工作

探偵が来る前に
ままごと遊びを始めよう

進歩の果てにて幻を見たがる

文明の灯の中、原始の白昼夢
繁華街のマッチ売りの最期は
憂愁と懐古にまみれた表情

寂しさ紛らわす為
建物を増やして
電灯を増やして

切り倒されたモミの木は電飾まみれ

白いクリームで心の隙間を埋めて

隣り合う恐怖を見ないための呪文

既に敗北した季節へ

迷信が消える時

山から聞こえる鬼の叫び声
天上に反響する真夜中には
松明持って嘘吐きの舌を抜く
怯えて過ごしていた子供時代

鬼も蛇も出ないまま
私の恐怖は消された

禍転じて福の音
鳴らす鈴を持つ
鬼も蛇も神の使い

山から聞こえる叫び声
未だ聞こえる私のまま
反響する声に黙って手を合わす

古代回線

海が溢れて月になる
恐竜が泣いた空の上
三日月は赤色をして
誰かのコートが舞う

暦を食べていた時代
お祭りに飽きた人々
洞窟の暮らしに戻る
空想を壁に描く変人

図書室にいる時間は
古代と繋がるスマホ
壁画が投稿される日
絵文字で送る気持ち

暇な私たちの交流は
喧騒の外で行われる

海月

月が丸くてつらかった
泉の底にいる誰かに
私の嘆きを伝えたら
やはり理解はされなくて

ずっと寂しい夜だけど
誰かと居たら泣きたくなる

海に泣き言叫んだら
シーサーペントが唸るから
黙っていられない私も唸る

食いちぎられる泣き言たち
クラゲになった悲しみたち

笑い転げて月の下

オーパーツの真実

羊皮に書いた地図は
間違いだらけだった
それでも満足の出来
大切に仕舞っておく

翡翠を丸く撫でて
穴をあける日は夜
穏やかな風の中に
願いを呟く女の姿

架空の物語は
いつか現実になる

現実も夢も星と一緒に回る
みんな丸くできている
そうして溶け合う
世界が生まれる

発掘された有機体の機械

有史以前のコンピュータは
生き物だったらしくて
よく食べてよく眠った

気まぐれだから
ものを聞いても
教えてくれたり
くれなかったり

使い勝手は悪いけれど
みんなと仲良くやっていた

化石になるコンピュータに
人類は気がつかない未来を
既に知っていたけれど

今はよく食べよく眠ること

暗号の自己顕示欲

暗号解読の結果を見て

あまりにつまらない
あまりにありきたり

暗号は憤慨して
文字列を崩した

再び解読に何十年もかけて

あまりにつまらない
あまりにありきたり

暗号は憤慨して
名作を綴った

暗号が読める文になる時は

誰も見向きもしなくなって
誰も構ってくれなくなって

生き延びて、本心からの全てへ

雷鳴あって生まれた日に
泣き声は土砂降りに溶けて
私の声はどこかに流れていった

なるべく遠くにいってくれ
そうして広いところで手足を伸ばせ
お前だけは生き延びてくれって本懐

泣くことがいいことの時代
泣くことがわるいことの時代

くだらないことばかりな時代錯誤

早く逃げてと、

芸術になり損なった行き倒れの影

消えて消えて形にかける消しゴム
思想、主義、主張、本音、本当、
行方知れずの私の心について
下書きを消すことから始める

その線は曲がっている
その音は調律されずに
その骨格は歪んでいる

美術館の前にふさぎ込む
正体不明の影は私です
交番は厭、雑木林の隅へ
置き去りにしてください

正しさの五月蝿いこと

骨格標本の正しさが重くて
人体模型の正しさが辛くて
私の体は標本通りでは無い

みんなが騒ぐほど怖く無くて
みんなが話す怪談はタチが悪くて

自然と離れていく心を
不思議とも生きづらいとも思わない

どうあったって存在は続く
人の苦しさをわかったような顔で
聞くのは見苦しいと思っていた

過ぎた朝に

お前にはお前の
私には私の
どうしようも無さ
無事であることが
なによりであるが
そうはいかないらしい

今朝は飲み過ぎた薬がまとわりつく
健全では無いと世間は言うだろうね

それでも今朝目が覚めたのなら
それは私の勝ちでいいはずだと

遠くかすれるお前なら言うだろう

疑うべき主人公による儀式

童話は世界の縮図みたいって
誰かが知ったように話す

あの女は毒林檎だと知っていた
それを笑いながら齧ったんだって
継母は冷たい独房の
鉄格子を掴んで叫ぶ

誰かが死なないと迎えられない
ハッピーエンドのための生贄

あの女は全てを知っていた
女の幸福のために
地獄に落ちる
継母の運命を

大衆文化に私の救いは無かった

溢れる寸前の世の中が
隠れる太陽を憂いている

冷たい雨に暗い朝に
気分が落下していく

駄目になっていくことに
抗うことはしないから
決して生きづらいなんて
使い古された流行り言葉に
身を捧げるものかと逆らっている

便利な言葉に救われたりしない
面倒な人間で構わなかった

大衆文化に私の幸せは無かった

何に救われてもいいけれど
私を救えるのは私だった
誰にでも言える言葉は
その音より内容より
どの口から出たのか
産地を確認せよと
警告音が鳴るから

難儀であると知っている
しかしそれで構わなかった

聞いたことのある言葉に
嬉々として乗って運ばれる事
それは私の幸せでは無かった

寡黙な熊のシェフ

スープの素材を当てるため
森のレストランに入った日
熊のシェフが煮込むスープ

スープは透明だった
火傷しながら飲めば
旨味が広がっていく

しかし素材はわからない
寡黙なシェフには聞きづらい

具材は細かく切られて
肉なのか野菜なのか
考えるのもやめて
腹を膨らまして
森を出る午後

自滅する本を見ている

どこにも入れない隙間のない
きっかり詰め込まれた背表紙
タイトルだけでお腹いっぱい
なんだか疲れてしまった日

一冊の本が抜け出して
本屋の外まで逃げ出した

読まれたがらない本が
自らページを破き出す
表紙も後書きも破いて棄てる

本が紙切れになる過程を
私は黙って見つめていた

救われなかった灰かぶり

切れ端集めて仕立てたドレス
ほつれてしまって布にもどる
一度も着ることはなかった
夢を見るための道具だった
小さな窓から差し込む光に
「魔法使いなんていない」
埃まみれの部屋の中で呟く

魔法なんて嘘だった
少女の絶望は呪いになる

棘だらけになる部屋で
二度と夢は見なかった

予言者は人に作られる

予報は外れても
誰も困らないのは
誰も信じてはいないから

荒唐無稽な予言ほど
有り難がられて
信仰に似たもの
みんなで祭り上げて

何も信じられなくなると
人はどうにも具合が悪く
パフォーマンス上手な
自称予言者に金を払う

そうしてその日が来るまで
みんなで大騒ぎをして
何かを紛らわす

古代回線

古代回線

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-11-15

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  1. いつかのデッサン
  2. 工作まみれのごっこ遊び
  3. 進歩の果てにて幻を見たがる
  4. 迷信が消える時
  5. 古代回線
  6. 海月
  7. オーパーツの真実
  8. 発掘された有機体の機械
  9. 暗号の自己顕示欲
  10. 生き延びて、本心からの全てへ
  11. 芸術になり損なった行き倒れの影
  12. 正しさの五月蝿いこと
  13. 過ぎた朝に
  14. 疑うべき主人公による儀式
  15. 大衆文化に私の救いは無かった
  16. 大衆文化に私の幸せは無かった
  17. 寡黙な熊のシェフ
  18. 自滅する本を見ている
  19. 救われなかった灰かぶり
  20. 予言者は人に作られる