自裁

環 和来

アメブロにかつてアップしたものです。

ㅤあの当時の出来事をはっきり覚えている。
 脳内をつんざくみたく一体に鳴り響く、聞いた事のない異様なサイレン。
 線路の上で血まみれとなって私は横たわりながら、遠のく意識に身を委ねていた。
 何もかもがどうでも良く思え、その中でも自殺願望は意志を持ち続けていた。
 何トンもの車両が往来している線路に希望を託した。
 そうして、私はその日――線路に飛び込んだ。

 舞台となる駅のベンチに座り、ぼろぼろと泣く私がいた。
 人のまばらな朝方の駅で涙を流しつつ葛藤していた。

 「死にたい」

 刹那に意志を持って私に迫った死にたい。
 違う。死ぬ道しか残されていなかったんだ。

 線路をふと見た時に確信した。自分を救うため、ここに飛び込むしかないと。

 最期だから、お世話となった方々にツイキャスでメッセージを残そう。
 いつまでも女々しく、この世界に私はすがり続けた。

 配信の最中、たくさんの方々が私に寄り添った。
 希望をなくした人間には何も届かない。
ㅤ聞こえてくるものは――ただの雑音。
 幸福を忘れて、苦痛に包まれた私を癒やす世界について考えた。
 死後の世界と呼ばれし場所がもしあるのならば、それに賭けてみたい。

 車両が何度も行き交っては目の前を通り過ぎてゆく。
 と、ここでタイミングが良くやって来た電車。助走をつけ、荷物を私は放り投げた。
 翼が生えたように体は軽かった。また、「ああ、幸せだ」本心からそう思えた。

ㅤ気がつけば、私の辺り一帯に赤色の海が広がっていた。

ㅤ「なあんだ。私、生きているんだ」

 サイレンが絶え間なく鳴り、複数人の救急隊員たちが私に呼びかけている。
ㅤ死に損ないとの文字が脳裏を過ぎった。ださいし情けない。
 悔しさ、迷惑をかけてしまったとの感情が入り混じって、ひたすら悲しかった。

 ストレッチャーに乗せられて救急車で近隣病院にまで搬送。
 出血の度合いを見たとある救急隊員が「この子は出血多量で死ぬかもしれない」そうつぶやく。
 「死にたい」との願いは「死なせてくれ」との願望に変わっていた。
 衣類や肌着などは裁断されて、バスローブを代わりに着せられた。

 病院に着いてからはベッドに。看護師さんたちに汚れた体をタオルで拭いていただく。
 「生きているんですね」
 天井をじっと見て、つぶやいた一言。
 「はい。あなたはここにいるんですよ」
 生きているから、ここにいるのだと。
 この現実を強い言葉とともに彼女たちは肯定した。

 「こんにちは」
 あいさつを受けて私が顔を上げると、2名の警察関係者が警察手帳を手に立っていた。
 こくんとそれにうなずけば、「さぞお辛かった事でしょう」と、彼らは私をねぎらったのだ。
 泣きたくなる。責められるとの覚悟を固めていたから。それだけに予想外だった。

 「自分をどうか責めないで、それ以上に、自分の事を今はお大事になさってください」

 あの出来事から、数年もの歳月が流れた。
 後遺症は特になく、元気に日々を過ごせている。
 この世界を完全にはまだ好きとなれていない――けれども、この世界で生きてみようと、頑張ろうと今は強く思えるのだ。

自裁

自裁

  • 小説
  • 掌編
  • 成人向け
  • 強い暴力的表現
更新日
登録日
2021-11-14

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