因果のきせつ

因果のきせつ

我が王国にて

更地にした土地を眺めて
都市計画は破いて棄てた

眼前には名前も知らない植物が
風に揺られているだけ

その景色に意味も意義も無く
それが救いであることに
民衆は気付かずここを去る

私は残り煙草をふかす
乾いた空気に煙が舞う

何も無いということは
私に残る唯一の正直だと
曇り空に嘯いて

収めるもの

雪国に生まれても
関東のからっ風は
冷たく痛かった
思考も止まる程
若き日々に吹く
洗礼にも似た風

私の目の中の都会は
銀色をしていた
品川のビルたち
ここまで来たと
思っていた時代

あの空気を吸えたのなら
あの銀色が見えたのなら
あの時間は無駄では無かった

因果のきせつ

大き過ぎて知覚できない
私たちの周りを泳いだ魚
骨は私たちの棲家だった
木の実を集めて崇拝して
火を囲んでお祝いをして
寂しさを紛らわして
私たちは進んでいた
寒さに勝つため
火を起こした日

暖炉の前で昔話
今年の冬に降る
多くの祝福が
雪になる
そして、
大昔の棲家の灰が降り積もる

指折り数えられる欲

忘れられていくこと
忘れられないこと
すれ違いざまに
切り傷が出来て
斑点が落ちる

何を大事に持っている
その砂時計をわらないと
宝の地図は見つからない

それでも大事に持っていた
引き際の知らない人間で
破れて切れて原型もない

砂粒よりもたくさんを
お願いします。

手を合わせて

剥がれ落ちていくきせつ

秋晴れの日は分離を始める
私の心は私の肉体を置いて
放浪をはじめてしまうから
私はぼんやりする他ない

落ち葉を踏んで鳴る音も
後ろからしか聞こえない

私はいない
私のいない
私のみてる
私のせかい

合わせ鏡のような
まだらになる心中

本日未明の出来事
切り抜き貼り付け
捜索依頼提出

例えばのこと

愛とか恋じゃない
好きがほしい

好きな色の好き
好きな季節の好き
好きな食べ物の好き

そんな好きがほしい

そんな今日。

神様が楽しそうにする日に

つむじ風を吹かせるのは枯葉の方
気分良く舞い上がって音を立てる

響くのは過去からの太鼓
響くのは未来からの笛
響くのは現在の手拍子

頭上で神楽がはじまる
機嫌良く酒盛りをする
神様たちに笑っていた

お堀の前、
立ち止まり、
お祭りが弾ける、
花火が上がる。

深海生活

届かない手紙がいい
繋がらない電話がいい
鳴らないチャイムがいい

静かなこと
振動が起きない
無風無音真空の
波もたたないみずたまり

私は潜んで暮らしている
ひっそりと静かに眠って

昼間も暗いこの部屋は
サイレントシネマの明かりだけ

遠い時代に遊んでいた頃

すだれの向こう
笑っている
音もなく

幼くはないけれど、
なんだか子供みたいね

シアンの空
カルタ遊び

紙風船になりたいなんて、
あなた言っておりましたね

そう、だって、きれいでしょう
それにね、あの音は、やさしいの

いっとうね、やさしいの

空霞む日に
あなたの声

混ざるものは少しずつずれ出して

本物は海中の雫みたいに
本物の顔をして混ざって

その一雫を握ろうとして
みんな浅瀬で遊んでいる

深海にはまって
潜水艦と鉢合わせ
ライトアップされる
被害者のモノローグ

探すことをやめた人
いつまでも遊ぶ人に
手を振ってみても
太陽は高いまま

少しずつ狂う波音
その日は前触れも無く

今、来る、きせつ

秋が濡れて
今日はぬるい

木々が葉を落とすのを
手伝うかのような秋雨

冷めたコーヒー
一定のリズムで
タイピングをする

いつかのことも
洗い流してしまえたら

私も枯葉の中に隠れて
冬を待たずに眠りたい

消えないもの
消せないもの
そんなことばかり
この望洋の前に佇んで

電気と光と意識について

音と光も超えて
感覚するものは
宇宙に溶けてゆく

一閃はもう後に
私と呼ぶための器は
元の位置にかえされる

飛ぶような
漂うような
よくわかるような
わかることは何と
淡色のまま水になりそうな

意識も心も魂も
最初と最後にある

カップの中の
創生観察日記

感情項目

算盤に魂を置いては駄目
勘定に命を置いては駄目
祈りを分解することも
およしなさいと天啓か

ありとあらゆるものが
ありとあらゆるように
ただ在るというままに
そう生きることに
許可証は不要だと

後破産の響きに目覚めて
たまが弾け飛んでゆく
星が増えた分だけ
時間が流れる

聞こえない音が降る日

文節に見た光或いは星々
形を変えて私に馴染み
しんとした心に到達

ようやくの静けさの中
私を包む大海
或いは大空

誰にも知られない
誰にも見えない
僅かな優しさ
極小の変化が
大気を震わす

そうして続く
私の生命活動

逆引きの世界史

ミルクひとつを引いてみても

milk、milch、mleko、
latte、la lait、leche、

どんな気持ちで摂るのでしょう

私の朝に飲んだミルクは

英語のそれと
独語のそれと
波語のそれと
伊語のそれと
仏語のそれと
西語のそれと

どのようにおなじで
どのようにちがうか

真っ白のノートに書く問い

かき消される共有事項

絵に描いた世界
図解された創世記

同じ言語を使ってみて
何でも共有出来るように
黒板にかかれた物事を写した

展示された世界観
それを映して投稿して

目に見えるものなら
きっと同じになれると思って
私たちは苛立ちながら笑ってる

個別の落胆を隠しながら
土砂降りの中、お茶をする

季節はありきたりの色を嫌う

空の梁を叩いているのは
季節の反骨精神のようで

次の番を譲りたくない気温が
雲たちと喧嘩をしていて
それを渡鳥が宥めている

酔うのは季節の悲しみ哉

春夏秋冬に割り込みたい
もう一つ二つの季節も在ろう

そん時は柳染の真昼が見たい
そん時は一斤染の夕刻が見たい

恐怖の横に畏怖が鎮座する

日の玉は遠くに鎮座して
黒くて厚い雲と暴風は
雨と霰を窓にぶつける

日本海にて暴れる怪物
巨大な胴体に群青の鱗
黒い海からの鳴き声は
防風林を走り抜けて
民家を震わせている

冬を告げる馬車馬の
この土地に轟く嘶き
厳しい季節を運ぶ

雷光を射る神々は
冬の大漁を告げている

町外れの祈りの家にて

やわらかな声
ステンドグラスの前
私は跪いて祈る真似
何も思うことは無い
光はゆるやかな傾斜
何も思うことは無い
望みも喜びも床の上
色彩を纏う光が遊ぶ

やわらかな声
子供たちの笑い声
天使が歩く庭園に
私は腰掛けて目を閉じる

光は瞼の裏で拍動する

閑話、燭台の見る無情

人の希望は消えはしない
消すのは自分の吐息だけ

銀の燭台はくたびれている
蝋燭は冷たい日陰にて冬眠

窓枠が額縁に見えるから
降り続ける雨に一時停止

雨どいから落下する運命へ

地面に沈んでゆく
海の夢を見ている

因果のきせつ

因果のきせつ

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-11-12

Copyrighted
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Copyrighted
  1. 我が王国にて
  2. 収めるもの
  3. 因果のきせつ
  4. 指折り数えられる欲
  5. 剥がれ落ちていくきせつ
  6. 例えばのこと
  7. 神様が楽しそうにする日に
  8. 深海生活
  9. 遠い時代に遊んでいた頃
  10. 混ざるものは少しずつずれ出して
  11. 今、来る、きせつ
  12. 電気と光と意識について
  13. 感情項目
  14. 聞こえない音が降る日
  15. 逆引きの世界史
  16. かき消される共有事項
  17. 季節はありきたりの色を嫌う
  18. 恐怖の横に畏怖が鎮座する
  19. 町外れの祈りの家にて
  20. 閑話、燭台の見る無情