やさしい巣

 やさしさをつめこまれて、きゅうくつだ。ベッドのなか。
 きみがいつのまにか、世界の中心になった日のこと。図書館で借りた鉱物図鑑を、いのちのつぎにたいせつなものみたいに、だきしめている。せんせいの、透ける飴色の、脱いだ皮の一部(おそらく、にのうでのあたり)を、なんとなく捨てられないものみたいに、丸いクッキー缶のなかにしまってある。
 窒息しそう。
 ぬくもりで。
 息継ぎをさせない、きみのくちびるは、べつに、感動するほど、やわらかくもないけれど。
 星のうえでは、いつも、あらゆる事柄が、くりかえされる。うまれて、しんで、つくられて、こわされる。遠い海にいる、シャチのことを想いながら、ぼくは、きみのあたえてくれるやさしさに埋もれて、くるしみながらも、ねむる。きみは満足そうに笑み、ぼくの髪を撫でる。愛とは、いつでも、どこでも、だいたい、自己満足のかたまりで、それはたぶん、だれかに対するやさしさも、おなじだ。
 冬は好きだよ。
 夜空の天体が、きれいにみえるから。
 いみもなく、泣きたくなるよね。

やさしい巣

やさしい巣

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-11-10

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