絶対安寧

 燃えつきた、星。いのちの光。躍動。人類。吐き気がする、ままごとじみた、だれかのやさしさ。好きだったひとのなまえを忘れたから、砂に還りたかった。
 爪に、赤をさす。
 きみがおもしろおかしそうに、わらう。
 夜がこわかったのは、こどもの頃だけのはずだったのに、いまでもときどき、夜は、こわいと思う。しらない国でおこる、戦争と、じぶんたちの国でひんぱつする、かなしい事件とが、みんな、メディアをとおしてもどこか、リアルさを欠いているようで、脳内が、フィクションめいたものに勝手に変換して、おまえの世界は大丈夫だよと言い聞かせている気がしている。自己防衛。いつだって、傷つきたくないのだ。こわいものは、しぬまでこわいし、いたみはなるべく、さけてとおりたい。
 ぼくの爪が、赤く染まる。
 きみのために生きているみたいな人生も、いいのかもしれないとかんがえる。
 ミルクチョコレートがコーティングされたラスクを食べながら、きみが、しらないだれかが配信した動画を観ている。それっておもしろいのとたずねたら、きみは、わかんない、とあっさり答えた。

絶対安寧

絶対安寧

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-11-09

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