偽物の逢引
Twitterで書いたやつです
知らない生
味のしないキス。
温もりのない掌。
触覚を無くした身体。
作り物の声。
愛とは呼べない線。
刹那の快楽。
もうどうでもよかった。辛いことばかりの人生だから、とことん利用されればいい
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「綺麗…」
名前も知らない彼が私の身体を見て言う。
「好きなんですか?刺青」
彼は何も言わなかった。ただ優しく、刺青をなぞるように舌を這わせた。
「あちこちに入ってるんだね」
そう言いながら身体中の刺青にキスをしていった。
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「お風呂…一緒に入ろうか」
常軌を逸している。彼の目は私以上に空洞だが、どこか情緒的で見つめていると意識が取り込まれそうになった。
私が返事をする前に、彼は風呂の準備をし始めた。慣れた手つきで風呂の支度を終わらせ、また私の刺青にキスをする。
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「今までどうやって生きてきた?」
キスを続けながら彼が聞く。徐々に熱を持ち始めた身体は、私の意思に反して小さく脈打ち始めていた。
「……なにも。ただ生きてるだけ」
私がそう言うと、彼はキスをやめて私の顔をゆっくりと覗き込んだ。何も言わずに数秒間見つめたあと、彼の唇が私の唇に触れた。
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「そうだね。君もからっぽだ。きっと」
そう言ってキスを続ける。彼の細い指が私の横腹を撫でる。
「…弱いだね」
そう言って、唇からゆっくりと動く。上唇…下唇…頬…左顳顬…左耳…耳たぶ…首筋…。息がうまくできない。
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「…お風呂行こっか」
私は何も考えずにゆっくりと頷いた。
アニメティの入浴剤は薔薇の香りだった。
「入れてごらん」
彼が耳元で囁く。封を切って入れると、湯船は真っ赤に染まった。
「綺麗だね」
笑いながら言う彼とゆっくりと湯船に浸かった。
私の背中に彼の物が触れている
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彼の手がゆっくりと私の両胸をほぐしていく。
「気持ちいいね…お風呂は」
声がこもってよく聞こえない。
「さっきの話、なんですか?」
「うん?さっきの話?」
「はい。からっぽって…」
「あー……」
語尾を伸ばしながら、彼は人差し指と親指に力を入れた。
「そのままの意味だよ」
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頸にゆっくりとキスをしながら彼は続ける。
「楽しくないでしょ。生きてるの」
彼の言葉はスローモーションで再生されているみたいだった。時間の流れさえ支配しているのかもしれない。胸から全身に抜ける不規則な快感も相まって、私の中の女が疼き始めているのを感じる。
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ドロドロに溶けた脳で考えられることなんてなかった。
お酒も飲んでいないのにふらふらの足でベッドに向かい、倒れ込むような形で彼を待った。下腹が小刻みに震える。
今日だけは私も存分に利用させてもらう。
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目を閉じて身体中で彼を感じた。
彼は快楽だけを私に叩きつけ、果てた後もしばらく私の頭を撫でて抱き合っていた。
こんな嘘、私は知らない。
偽物の逢引
あはは