きみが神さまになった日

 蟲の羽音で、目が醒める朝の、あしもとからはいあがってくる、あの気持ち悪さを、いかにして伝えればいいのだろう。ぼくにとっての神さまは、きっと、だれよりも愛しいあのひと。心臓の音を、ときどき、きかせてくれる。コーヒーよりも紅茶が好きで、明け方の空をうっそりとみつめながら飲んでいる。砂糖はいれない。ミルクも。ぼくはベッドに横たわったまま、あのひとの背中を観察しているのが楽しい。うすぼんやりとした光のなかに浮かび上がる、からだの輪郭。紅茶を飲むときにわずかにうごく、肩甲骨。上から下へ、下から上へ、なめらかな皮膚とほどよくかたい肉にかくされた、背骨の形を想像する。ぼくは、あのひとの重さをしっている。質量。つぶされてもいい。はてたあと、ぼくのからだにのしかかるとき、あのひとは、重くてごめん、と謝るけれど、ぜんぜん。むしろ、うれしいのだというと、あのひとは、困ったように笑うのだ。
 あのひとが窓をあける。
 つめたくて、よどみない、まっさらな空気が流れこんでくる。
 夜のおわりはいつも、いみもなく泣きたい気持ちを、吸いとってくれる気がする。
 どんなにかなしいことがあっても、かならず朝はやってくることを、救いだと思えればいい。
 手を伸ばせば、すぐそこに。

きみが神さまになった日

きみが神さまになった日

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-11-07

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