新大陸

雪水 雪技

新大陸

新大陸

香辛料を手に入れて
乾いた土地を歩いて
海岸線を目指していた

小さな芽を踏まないように
そういうのを優しさと呼ぶ
そう習ったから、僕は優しい筈

一体いつになれば
この土地の重力に
この土地の磁場に
触れられるのだろう

優しさが足りないから
足りないものを補う為
この香りが優しさなら

幽体離脱

語り出した片割れは
沈黙する私を一瞥する

お前のせいだと責め立て
悪いのは誰だと犯人探し

二つの役をする片割れと
一つの個が見つからない私

特別を履き違えて
苦労を私と思い込む

私を家宅捜査する片割れ
私を予言する片割れ

お前は誰だと問うてみれば
呆気なく煙になる私の半分

夢遊デパート

吊るされた青いドレスは蝶のよう
かつて心を砕いたものを素通りして
釈明も言い訳も窓から投げ捨てた

欲しいものなんて一つも無い
このデパートから逃げ出した
思い出は宝石になっても
私を引き止める輝きは無い

夢は私の心を引き裂いて
新しい布地を作って
違うドレスを生む

身体測定

頭の中で血が巡るのを
傍観できる夜中の目玉
私の体を見る私の目玉

体温の変化に頭は痛む
らしく、締め付けられ
鎮痛剤を探る私の指先

気温の変化に体は怠い
みたいに、つらくなり
処方薬を探る私の指先

苦い薬がとけていく
頭の紐がほどけていく
眠るのが一等好きと呟く

真夜中、それは今、

遊泳禁止区

海に浮かぶ鯨の背中
その上に住む人たち
遊泳する人たちに
手を振って

また浮かんでくる
有機体のシャボン玉

全身が生き物だと感じることが
困難な人間になって生きている

トカゲの尻尾を羨んでみて
切り離せない影、隣の陰影

見離した本日
悔やむ真夜中

裁縫箱

無機質な音にも情を見て
埋もれて窒息しそうな日

不器用とか繊細とか
便利なアップリケをつけて
すぐに、また剥がれ落ちて

嫌になっても私を降りられない
おもねる今日が来なかっただけ

遠くからミシンの音がする

何かを縫い合わせるため
何かを塞ぐため

夜なべして、生きる理由、取り繕う

雨天結構

凍らせ砕いて川に流しても
海にたどり着いたとしても
再びわたしに降る雨だ

同じことを繰り返して
同じ場所を怪我して

雨に打たれて仰向けに見た空は
晴れ間が泳いでいて
意地が悪く見えた

わかりやすい白と黒なんて無くて
いっそこその灰色なんても無くて

在るのは何色にもなれない色だけ

水槽

沈む沈む 私は泥になる

一番底まで ゆっくり沈む

魚が泳ぐ 水族館みたいな

この部屋は 今は水槽

濁った水の やりきれない

水草は何に漂う?

私は 沈澱する

水の底で 眠るように

想像の中で 死んでみる

そんな日が 必要みたい

曇天が迫るから
縮こまる心臓
見えてきたなら
飽きてくるから
視界不良の今日
雨の中で晴天を待って
晴天の日に雨乞いをする
天邪鬼がツノを隠して生きている

私が人の形であることの意味
そういう誰でも手に取れる疑問符を
棄てる勇気を持つ日には
天気予報を受け入れて
折り畳み傘を鞄に入れる

サプリメント

バランスは偏る
好きなものしかいらないのに
嫌いなものがわからないから

心を合わせて生きる弊害だって
何が大事かなんてわからない
他人にわかってたまるかと
何かを頑なに隠して生きる

その痛みが本物なら
前ばかり向いてちゃ危ないよ

用法容量

多めに見たなら
多めに飲んだ日

情状酌量
そう言って
許し続けて
壊れたもの

多め多めに人のためにあけていた
ある日のホワイトアウト
鮮血の心は滲んでも
笑顔浮かべて何してる

全員を恨まないために
全員を忘れていこう
画鋲でとめていた
風景画を破いて

泣き叫んでる今、

慟哭

はやくおわりたいだけ

役割も義務も権利も意味も愛も恋も個性も動機も病名も表情も体も心も魂も

全部、知らない

どこにいても
どこにもいない
幽霊と変わらない

人間の私

生きていたいのに
認められない
私のほんとうたち

泣き虫

音を集めて
雨を降らせて
昨日の涙を洗って
真っ暗な日は新月
始まりの日は何度でも

月は泣いている
太陽は泣いている
雲はその涙を背負っている

川を作って
海を満たして
透明な群衆は傘の下

泣き腫らした地球に
優しさの降る日は
神様しか知らない

空砲

真っ赤な星が落ちてきて
みんな今日は半ドンです
砲台用意
青い海へ
撃て撃て

轟音に紛れて泣いてしまえ

掌の中の小銃に
言いたいことたち
言えなかったことたち
言葉の無い感情たち
弾薬に混ぜ込んで
青い空目掛けて
全弾撃ち尽くせ

殻薬莢と泣き顔
落ち葉に紛れて
硝煙と感傷
秋の空へ

蠍座新月

蠍座が新月の周りを歩いている
その尻尾から垂れる毒が
私の胸には劇薬だった

回る視界
回る地球

後悔無き人生などあるものか
たくさん後悔して彩りを楽しむ

回る毒液
回る独楽

私は赤い星に
私は静かな新月に

本当のことだけを呟く
そういう性分であるから

不安定を遊ぶ本性が暴かれる

放物線を辿って
この街にやって来た
空は年中オレンジ色
四季なんてものは無く
一つの音楽を永遠に演奏する

道案内の少年が金貨を握る
砂埃と焦げたにおいが立つ
燻製と小麦料理を食べると
もう夜であると鐘が鳴る

空は相変わらずオレンジ色をしている
枇杷色の服ばかりが行き交う街並み

夢想

外れることを恐れても
夢を語る口は滑らかだ

狐に恐れについて問われ
言い淀んでは笑われていた

古い土地ばかり歩いている
安堵と終焉を感じながら

現実から離れることに必死で
夢のための生なのか
逃避のための夢なのか

目が回るほどに混乱して
廃墟ばかりを散歩している

色付きの雨が降る

深く深く降る雨は
低い低い雲からの
季節の色はとけて
下へ下へ溜まって

まばらな記憶
思い出たちは
明け方、息を引き取りました

深く深く沈んで
一人の呼吸は
雨にまざって

私は降らない
私は落ちる
季節の色水

居留守

窓から入り込む空気は
よそよそしくて苦手
毛布をかぶって居留守
何度も鳴るチャイムに
その音が嫌いだから
イヤホンつけて居留守

いつもいるのに
いつもいない私

私の場所だけ切り取って
何処かへ棄てに行きたくなる

廃墟になった思い出の横を
黒猫が歩いている

あの夜よりも綺麗な毛並みで

風船

日々は膨張を続けて
いつか破裂するって
今朝のニュース番組
電車に乗るバスに乗る
乗り物は苦手だった
世界が狭くなった日
縮小がはじまって
全てが圧縮されて
片手に収まる世界
日常はごっこ遊び
真剣になって泣いている
怪我はしたく無いけれど
冒険はしたくて飛び出す
伸縮する世界の隅で

新大陸

新大陸

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-11-06

Copyrighted
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  1. 新大陸
  2. 幽体離脱
  3. 夢遊デパート
  4. 身体測定
  5. 遊泳禁止区
  6. 裁縫箱
  7. 雨天結構
  8. 水槽
  9. サプリメント
  10. 用法容量
  11. 慟哭
  12. 泣き虫
  13. 空砲
  14. 蠍座新月
  15. 夢想
  16. 色付きの雨が降る
  17. 居留守
  18. 風船