氷塊

雪水 雪技

氷塊

季節の手

ふくらとした手に包む
季節のおくりものを
森へ返しに行った
もみの木のあの子

光は強くて
大気は冷たい
境目に見えるのは
幻覚か夢か実像か

鏡の向こうで笑ったあの子
森の奥で眠り続けて
鏡を介して会いにくる

私の顔色を見て微笑んで
雪の結晶づくりにいそしむ
ふくらとした小さな手

ハロウィン

かぼちゃを蒸して
彷徨う魂がつられて
ああ、お醤油のにおい

甘いかぼちゃにさつまいもが並ぶ食卓
トリックオアトリートも言い忘れて
煮物の前にお行儀よく座っていた

一人暮らしの僕の家に
行き場のないお化けたちが集い
それぞれの来た道を語り出した

海底にある団地

夕暮れ色したアルコール
浸され溺れて夜半には

電信柱が歩き出して
街灯はよろめき出す

寂しい心が見せる幻は
いつか文字の中で生き返る

釦を落として目印に
この先にお菓子の家は無い

荒屋のような心で歩いてる
おさなごのように怯えきり

木の影に魔女を見つけて
悲鳴を上げた深夜の団地

個をうたう

寒空の下を
自由に舞う
小鳥に見た
強さは眩しく
曇天の今日にも
命が燃えるのを
見上げていた

太陽は地球を照らして
私の血脈を動かして
命の音を聞かせる

テンポよく鳴り続ける心音

小鳥と重なる刹那、私は生命の輪郭に
取り残されることは無いと知る

十二

人類の予想に反した
軌道を描く惑星たち

望遠鏡を覗く目玉が回り始めて
観測者は酔い潰れ草むらに寝転がる

磁場が揺らいで音程は狂う
指揮者は眠るように曲を終えた

奇跡は今日起こるらしく
水晶玉は発光して信号を送る

十二等分にされた暦と星空の落下
世紀の大発見は強い光に消される

知覚できない全知

寸法の合わない空を見て
水玉のスカートは嘆いた

透明な葬列は道の上に
寂しい風を吹かせてる

ひらりと舞う異国の布地
知らない国の踊りを思った

聞いたことのない笛の音
見たことのない金の塔

思い浮かべる知らない世界

私が目の前の風景から
切り取られていく為に

今、創生された世界

本性

誰のための涙でもなく
誰のための言葉も無く

寒波より厳しい物語に
切り刻まれて沈んだ私の遺体が
私の腕の中で静かに眠っている

心に空いた穴を塞ぐために

吹き荒ぶ音を聞いて

猛吹雪で視界を閉じて

私は嵐の真昼に立つ

粗野な私の本性に

響く怒涛が欲しかった

誓約

十年前とは違う感性を持てと私へ命ず
永遠に似たようなことは書かない

生きるためには
私は私に飽きてはならない
私は私に酔い潰れてはならない

私は今にしか生きられない

言葉の断面が腐らぬうちに
私は言葉を並べる
奇をてらわずして
当たり前の不意を突く

そうして、当たり前に老いてゆく

逃亡

知らない国の砂漠にて
私はラクダを探してた

祈りの歌声に聞き惚れて
煙草を一本ふかしたなら

ラクダに乗って
逃げてみせよう

私の影も
私の記憶も
つまらない悔恨も

砂漠に置き去りにしてしまえ

そして、遠くまで、笑いながら

この国で覚えた歌をうたって
地の果てまで逃げ切ってみせよう

カウンターテーブル

琥珀色の酒を持ちながら
テーブルの木目を見つめていた

心は子供の頃と変わらないまま
立つ場所ばかりが変わり続ける

麦茶と間違えて飲み干した酒は
内臓を焼き尽くしてしまった

目が回りだして
木目は移動し始める

光るナイフで店主がチーズを切る間

私は逃げる木目に
生い立ちを語りだした

氷鏡

氷の張った水溜りの向こうに
暗鬱の世界が見えてくる
幽霊の様相でこちらを向いて
足音もなくふらふらと歩いている

俯く私を大きな目が見つめている
氷を傘で突いて白いヒビを入れる
軽快な音と何かを含んだ笑い声が
白い朝の風景に反響していく

顔を上げれば
色彩は失せて
蒼白の街並み

氷塊

氷塊浮かぶグラスに
上からとろとろと垂らす
赤い赤い木苺のシロップ
船が通るから目印にして
その後マドラーでかき回す
白い氷塊が桃色に染まるのは
港に訪れる夕暮れを表している

溶けていく氷塊
グラスに満ちる
ノスタルジア

私の背中にセピア色した焦燥が迫る

蛹時代

青虫は葉を食んで
私は実をもいで
それぞれ腹を満たす午後

ないものねだりの人類史
蝶にも花にもなれないテクノロジー
人間であることは仕方のないこと

青虫が蝶になれるのかは知らない
蝶になったら青虫では無くなる
飛べる分だけ蜘蛛の巣にかかる

ないものねだりの
文明無しでは生きられない

Isaac

隣に置いた林檎が腐ってゆくのを見て
時間はたしかに流れていると知る
一直線にしかとらえられないから
斜めに流れるもの
曲線を描くもの
それらを信じることは難しい

この直線の上
来た道を戻ることは出来なくて

退屈を恐れるあまり
目を開けることを拒む一秒、一秒

味気なし

お菓子になっていく思い出を
こぼしながら食べていた

味のないぱさぱさとした
美味しくもないお菓子を
口に入れて咀嚼する

悲しくなると喉が詰まる
声を出せなかった日々が
どうしても消えてくれない

目の前の皿を空にするために
止まらない手が余計に悲しくさせる

消えてしまえ、目の前から

余命宣告

魂は売り物にならない
命は賭け事に向いてない

走って、います

安心のために
心拍数を上げて
寿命に手を伸ばして

「何もいらないから」

寂しいことを言うなって、返ってきた

多分、何も叶わない
叶えるために生きるのをやめて

ただ、息をする

立ち止まって
進まなくとも
時間は過ぎる

本能

多分ね、
人の群れを離れたいのは
多分ね、
人類の根源的本能だから

日の当たらない階段
誰もこない別館の
空き家の見える窓

誰とも繋がらない通信機器

コンビニで買ったお弁当は
ひとりで食べても美味しい

それを知っていたことが
私を救ってくれたのだとしたら

本能とは優秀だ

列を成す迷子

何処にいても
ここにいなかった
いつも溺れていたから
答えを探して助かろうとしていた

月を見ながら焦っていた
私が消えていくのを
私の奥で感じていた

涙を流したのは私だったのか
叫んでいたのは私だったのか

どこにいても彷徨っていた

だから、迷うことに慣れていった

処方箋

貝殻の中から
新しい御伽噺
海の音に混ざる
語り部は泡になる

ヤドカリを見つけて
引っ越しの相談をする
砂浜で火傷をした帰り道

海に浮かぶ沢山の頭
太陽に溶けて海になる

あれは神様だったと
新しい神話がノートにたまる

人の声に疲れた心に
処方された御伽噺
受け継がれる神話

論文

台所で膨らむ仮説が
帰宅した博士を迎えて
その日の夕餉は豪華だった

昼間に見た悪夢の解析
公園の子供達に依頼して
ようやく安眠できる夜半

余白を埋めて生きていた
空白を恐れて生活していた

白紙の手紙に安堵して
何も無いまま息をして

氷塊

氷塊

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-11-03

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  1. 季節の手
  2. ハロウィン
  3. 海底にある団地
  4. 個をうたう
  5. 十二
  6. 知覚できない全知
  7. 本性
  8. 誓約
  9. 逃亡
  10. カウンターテーブル
  11. 氷鏡
  12. 氷塊
  13. 蛹時代
  14. Isaac
  15. 味気なし
  16. 余命宣告
  17. 本能
  18. 列を成す迷子
  19. 処方箋
  20. 論文