とある女のハロウィン

てつ

少し遅れましたがハロウィンの話です。

即席ピエロの話し

傷をつけてやった。
抱きついているときに爪で背中をガリッと。首に噛み付いて歯形をつけてやった。
瞬間に凄い力で押しのけられた。悠太は驚いた顔して化け物を見るかのようにベッドに手をついてこっちを向いている。素っ裸だからとても情けなく見える。こんな奴に私は身体を許していたのかと思うと、私までもが惨めに思えてくる。
こんな場所に長居するものじゃない。そう思ったから呆けている悠太を傍目に服を着てバッグを手に取り、財布から三千円を取り出し悠太に投げつけた。
「じゃあ、そういうことだから」
そう言って私は悪趣味なピンクの部屋から出て行った。街に出るとあたりは低俗な仮装の人間で溢れかえっていた。ピエロの化粧をしてキッチリと紫のスーツで決めている男や、寒いのにも関わらずに足や肩を出して扇情的なナース服を着ている女。
こんなことなら悠太の顔を一発でも殴っておくのだった。
顔に痣があっても誰も気に留めないだろう。むしろリアルなメイクをしていると人気が出たかもしれない。
私は知っている。
悠太が昨日、地雷系ファッションの女と同じホテルに向かったこと。その女との関係が思ったよりも長く続いていること。でも私とは別れていなかったこと。
正直、正気とは思えない。よく前日に使ったホテルをまた使おうと思うもんだ。
私からしたら悠太こそ化け物だ。最低最悪のピエロだ。
でもそのことが分かっていながら、今日時間をかけてメイクをして洋服も新しいものを下ろして気合を入れている私のほうがピエロなのかもしれない。
街明かりにギラギラと照らされた店のショーウィンドウに私の姿が反射した。
新しく下ろした洋服は見る影もなくボロボロで、メイクは汗とかでじんわりと滲んでいる。
私もこの低俗なハロウィンの一部となってしまった。
気が触れたふりをしよう。今日くらいはそんなこと許されるだろう。
私はニッコリと笑う。滲んだメイクが目に入って涙が出てくる。
そうして楽しそうにピエロは、怒声と笑い声の響く街をスキップをしてかき分けて消えていった。

とある女のハロウィン

この世界はコロナじゃないです。

とある女のハロウィン

女の即席ピエロのお話。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-11-03

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