頭蓋の犬

「それは、『   』だね」
頭蓋骨を被る犬。口を衝いて出た名は空白。
犬は先を往く。
すでに復路を失った私だ。
犬は先を往く。

私は俺になる。俺は僕になる。老いて幼く。
犬は嫌いだ。噛む。吠える。老いて幼く。
憧憬とも焦燥ともつかぬもの。
犬は先を往く。
僕は後を行く。

「返してほしい」
私に戻る私は訴える。
犬は一切振り返らない。
私は犬を追い越せない。
畏怖。恐怖。血の滴る創造。

「くれてやる」
負け惜しみ。
犬は謗る。何事より先に。

過去に捨て置かれ、未来に泥を塗った。
腐乱の潜熱が私だ。

頭蓋の犬

頭蓋の犬

  • 自由詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-10-31

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