頭蓋の犬
「それは、『 』だね」
頭蓋骨を被る犬。口を衝いて出た名は空白。
犬は先を往く。
すでに復路を失った私だ。
犬は先を往く。
私は俺になる。俺は僕になる。老いて幼く。
犬は嫌いだ。噛む。吠える。老いて幼く。
憧憬とも焦燥ともつかぬもの。
犬は先を往く。
僕は後を行く。
「返してほしい」
私に戻る私は訴える。
犬は一切振り返らない。
私は犬を追い越せない。
畏怖。恐怖。血の滴る創造。
「くれてやる」
負け惜しみ。
犬は謗る。何事より先に。
過去に捨て置かれ、未来に泥を塗った。
腐乱の潜熱が私だ。
頭蓋の犬