滑落
春を、まちわびていた。あのこが、花の額縁のなかで、すてきな絵になった日に、孤独は海に葬られた。あのこは途方もなく、やさしいこだったと、はんぶん呆れられながらも、愛されていたのだと思う。わたしたちが、星のためにできることを、ほんとうはもっと、まじめにかんがえるべきなのに。あとからうまれたくせに、えらぶっていると、そう吐き捨てたのは、一億三千年前からそんざいしている、いわば、先住民みたいなひと。(ひと?)
うつくしいものになれたら、それでよかった。
バケモノの長い爪に、ひらかれた胸の内を、おしみなくみせつける、ツインテールの少女。
夕焼け色に染まる街と、月を抱いて眠る都市。
朝、トーストに目玉焼きをのせて食べるときの、慎重さが、きみには欠けていると、ときどき、わたしのそういうところを指摘したがる、先生。
あのこがいる美術館で、なまえもしらない絵のなかのだれかと目が合った瞬間の、既視感。
いつも、なかったことにされる。秋。
滑落