アマゾン、ガンジス、ヨウスコウ

あおい はる

 ねこがあくびをしている。イルカの種類をしらべているあいだに、夜になっていた。イロワケイルカと、各種カワイルカのなまえは、なんだか口当たりがいいよねと、ぽややんと言うのはルネだ。おとこでも、おんなでもないのが、ルネである。おとこのあれも、おんなのそれもない、ルネのからだを、ルネ自身は、中途半端だというけれど、いっそ潔いのではと、あたしは思っている。性別をくれなかった神さまを、ルネはすこしだけうらんでいるらしいけれど。でも、ときどき思うんだ、にんげんとして生まれただけでもよかったって。とくに、動物のドキュメンタリーとか観ていると、どっちつかずなからだだけれど、にんげん、という枠に入れただけでも幸せなのかもと、ルネはしみじみと語ったことがある。わかるような気がするし、わからないような気もするし、たとえばライオンも、おなじ哺乳類であるのだし、にんげんに生まれたから幸せ、という考え方をそのまま享受するのは、まちがっていることのようにも思えた。生まれや育ちは、にんげんだって個々でみんな異なるわけだし、そのなかでもそれぞれに、相応の幸せは存在しているだろうし。食うか、食われるかのサバンナに棲む、ライオンの生き様だって、にんげんからは不幸そうにみえても、ライオンたちにとってはそれがあたりまえの日常であり、ライオンにはライオンにしかわからない幸福があるはずだ。などと、サファリパークにいる、まるで飼いねこに成り下がってしまった、ぐうたらのライオンしかみたことのないあたしが、なにを言うんだかと思いながら、クジラとイルカの図鑑を閉じたルネが伸びをして、塩バターラーメンが食べたいかも、と呟く横顔を、ただじっと見ていた。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-10-29

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