ナンバー / ファイブ
沼には、例の、シリアルナンバーのひとびとが棲んでいて、シグマは、そのひとたちのことを、この星でいちばんやさしいひとたちなのだという。ひかるくんが、わたしを恋愛の意味で好きだと言った日に、ナンバーファイブのひとが、シグマのために毛糸でブランケットを編んだ。ちょっと重たい(ナンバーファイブのきもちが、ではなく、単純に、質量のもんだい)らしいけれど、でも、泣きたいくらいあたたかなオレンジ色は、シグマにとてもよく似合っている。ひかるくんは、海の底で眠るような愛をしたいといって、それに最適なのはわたしなのだと、うったえるみたいな告白をした。コンビニで、おでんを選んでいるときの迷いをおぼえながら、わたしは、ひかるくんの恋人になることにした。たまご、大根、糸こんにゃく、すこしカロリーが気になるけれど、牛串。あ、ウインナーもすてがたい。ひかるくんはかっこいいので、ぜったいに、十人ちゅう九人はかっこいいと肯定するくらいに、かっこいいひとなので、そんなかっこいいひとに好きだと言われて、断れるわけがない。けれども、シグマは、そういうのはどうかと思うよと、微妙な表情でカフェラテを飲んでいた。海の底で眠るような愛とか、意味わからないし。わたしは、シグマならきっとそう言うだろうと想像していた。なんか、そういう、地に足のついていないような戯言を、シグマはきらうのだ。沼に棲んでいるナンバーファイブは、シグマとの逢瀬に、かならず映画館を指定するというので、なんかそれもちょっと、夢見がちな感じがする、とわたしはひそかに思った。ふたりの観る映画は、子守唄をずっと聴いているみたいで、一度、おなじ映画を観たときに、わたしは早々に眠ってしまった。そのときはまだ、友だちだったひかるくんは、音楽と映像がうつくしかったと、表面的な感想しか言っていなかった。シグマは呆れていたけれど、ナンバーファイブはそういうこともあると、かわいいおばあちゃんのようにやさしく微笑んでいた。
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