遺書

雪水 雪技

遺書

散らばる破片に映るもの

有限と無限を望遠鏡の中に見つける
それは言語化できない寂しさの一片

少年少女の瞳の中にある
ほんとうの星たちが
大人の影を濃くした

諦めて死んでいった感性たち
それらへ繰り返す悔恨の言葉

複雑な仕組みのように装って
本当は到達されたく無いだけ

単純明快な心と体
顕微鏡で明かされる

創生以前の出来事

はじまりは眠りであったといいます
次には起きていたといいます
長く眠ると夢は投影されます
私はそれを見ていたのです
多面体の投影を二十の目?
それ以上で、それ以上を

初めて色彩を知った日は
絵の具を買いに行きたくなります
白に映える色々を知りたくなります

宇宙交信術

金星から飛来する十二の翼は
夜には世界を結ぶ電波塔になる

イルミネーション
オーロラのアート
空に映し出される
多重の運命の形に
水晶玉は共鳴する

架空科学により生まれた
想像する飛行船へ乗り込み
太陽系外惑星にアンテナを運ぶ

円盤のテレポーテーション
見様見真似に意識飛ばして

今際の際に見た夢は

空への想いを燃料にして
気球は燃え上がり旅をする

山を越えて海を見て
珈琲を飲む朝焼けに
燃えてゆく心の芯は
まもなく途切れていく

線路と地平線
クレーターと地上絵
空に浮かぶ遺跡と化石

この星の真実と歴史は
五感に感じ入るもので
知識は涙になり落下した

夕方のニュースの声がする

混沌校庭

教室の中の水槽のその中で
宇宙を泳ぐ夢を見る熱帯魚

私は眠くなる
単語は踊り出す
先生の声も盆踊り

校庭で騒ぐ包帯男
白線を消して回る

皆真面目に黒板を見て
すぐ隣の混沌に気付かない

文庫本に挟んだ栞は萎えていた
私と物語に飽きてしまっていた

起承転結に永訣
過去問からの創生を見る

単細胞の見た世界

アルコールランプに重ねたのは
誰かの一生のような気がした
酸素がなければ火も私も
存在できないこと

どうしてこんなにも違ったろうか

シャーレの中で蠢いているのは
誰かの頑張りのような気がした
ミクロの命に数千の魂たち

微生物と話して
ノートをとって
昔馴染みの声に安堵していた

原始の頃に

いとけないやり取りは
何年経っても変わらない

苔と木々が覆う巨大な墓碑
誰のものか知らずに長話

湧水が溢れる暮らしに慣れて
雨乞いは誰よりも上手くなる

審判の日には寝坊をして
天から呆れられていた

手足が伸びても幼い心が
雨を呼んで雷を落とした

身投げする正午

単語の雨が降るようで
秋晴れの空に白い火花
生きている今日
満天の星は滅ぶ

単語を食む私の口には
幾億の追憶が生まれて
端からはしから
川へ身を投げる

海を目指す名詞たち
ひとつの素晴らしさ
うたに乗せている
船は出港して
煙が上がる

蜃気楼に見る思い出たちが
手招きをする 正午に

ブランコ死生観

新月から垂れるブランコは
白く光って滲んでいる

涙が落ちるようにして
ゆらゆらと放られている

腰をかけて地上を見れば

人の頭の上に等しく
寂しく揺れてるブランコ

誰も乗せることなく
放っておかれている

心象の公園はいつも夕刻
影と共に縫い付けられて

永遠の遊び場にひとり

思い出 一

上野駅早朝立ち食い蕎麦
それが私の一歩であった

無理をしても走れていた
無理をすることに価値があった

そんな時代を過ぎてみて
そんな時代があったから

あの日の嘆きも乾き切り
砂埃をあげて誰かが走る
枯れた土地に水遣りをする
ただ風に吹かれるだけの日々
そのためだけに努めた過去だ

思い出 二

合わない靴を履きながら
雨の中を歩いていたら
血まみれになった足
すぐに伝線するから
ストッキングは不快

何をそんなに頑張っていた
何をそんなに求めていた
何を売りに走っていた
何を指針に走っていた

遠回りだったのか
近道だったのか
棺桶に入るまでわからない
音声ガイダンスも無い道に

思い出 三

吹雪に霰に豪雨に雹
時々の晴れに騙されて
ビニール傘ひとつで
歩いて来たことに
誇りなんて無い

人は自分より楽する人を嫌う
人は自分以上の苦難を人に求める

そんな人になりたくなかった
だから沈黙して笑っていた
だから他人の主張を嫌った

寛容を志す程狭くなる了見
全部が嫌になる今日へ

思い出 四

賽を投げて
才を振って
歩きやすい道を作ろうと
親やすい土地を作ろうと
投げて振って出した目に
全てを賭けて捧げていた

ある日寸断される道
ある日土足で荒らされる土地

私のためのものが
どこにいったのか
わからなくなって

わかったことなら

投げ出したのは私の四肢
降ってきたのは私の涙

降霊術

燃焼を続ける硝子
上がる煙は光を曲げる
気体となるプリズムに
人工太陽の光が照射される

百年後の錬金術
世界線を曲げて
捏造された過去
夢想された未来

警鐘が鳴る地下室にて
培養された鉱石たちの
悪夢に魅せられた結社

心理と魔法の化学反応は禁忌だった
火傷の絶えないスピリットは彷徨う

破戒

朝は煙になって何処かへ行った
だから今日はもう無くなった
消えた日付に大さじ2の
優越と罪悪を混ぜて供養

消えた空間に私だけが在って
そこには現実の違和感は無く
ただ自分を感じて浮遊する

縁起が結ばれて
因果が絡んで
宇宙は眠る

無重力に不安になる矛盾
自由は寝不足で寒がりだった

死相

暗い気持ちの夕暮れに
陰気な心を持ったまま
病院から這い出て帰り道

車の前照灯は知らん顔
皆、皆、平然と歩いて
その下を知ることなく

湿ったアスファルトに
ぬかるむ影が人生の暗喩

みたらしのにおいがすれば
何もかもどうでもよくなる

抒情も感傷も煮詰められて
鍋の底で焦げた今日の供養

殺害されたもの

単語がばらけて形は成さない
それでも読んでるふりをする
目が追うものはなんであろう

互いに何もわからない事情
飲み込めなかった事柄たち
気まずそうに汗をかいてる

なれなかったもの
なじめなかったもの
ゆるせなかったもの

けれども責めても仕方なかった

下を向いて立ち止まった現在時刻

解離

嵐の中に残ると決めた
いつか見た少女を置いて
私は当て所も無く
ただ、歩いていた

風は穏やか過ぎ
海は凪いだまま
心になんの作用も無く

ただ、ただ過ぎてゆく
車、列車、ヨットたち

乗せてもらおうにも
行きたい場所も無く

憂鬱の惑星の引力が
いつか千切れる日
願って夢見て
泣いていよう

幽霊

何にも興味がなくなって
私は私を持て余して

飽きてしまったものたちと一緒に
投棄してしまいたい私を持って

どこかの青空思い浮かべて
今じゃない
いつかに
消え入り

ここから心を消滅させて
ゆっくり輪郭線を消して

幽霊になったまま
雨の繁華街を
散漫な光を
遠ざかり

遺書

認められないものだけが
本当の叫びかもしれない

誰も救うつもりもないし
私を助けるつもりもない

これは氾濫した心の革命
鮮血の心は冬の日に滅んだ

何にも、何にも、憧れはしない
漂白、潔白、溺死してゆく
望むものはもう無い

理解しようとも
理解されまいと

小春日和に和やかな遺書を

遺書

遺書

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-10-26

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 散らばる破片に映るもの
  2. 創生以前の出来事
  3. 宇宙交信術
  4. 今際の際に見た夢は
  5. 混沌校庭
  6. 単細胞の見た世界
  7. 原始の頃に
  8. 身投げする正午
  9. ブランコ死生観
  10. 思い出 一
  11. 思い出 二
  12. 思い出 三
  13. 思い出 四
  14. 降霊術
  15. 破戒
  16. 死相
  17. 殺害されたもの
  18. 解離
  19. 幽霊
  20. 遺書