秋季宇宙論

雪水 雪技

秋季宇宙論

宙の鍵盤

秋空の今日にやかましき声
いっそ雨よ霰よ降れと願う
空中に浮かぶ鍵盤を叩いて
やかましき本日を打ち消せ

やかましき声耳に障る
ああ随分と気難しくなった
ああ随分と苛立つようになった
あまりにも人間的な今日になる

いっそ雨よ霰よ降れと願う
空中に浮かぶ鍵盤を叩け
調律された音よ降れ

閉じてゆくもの

傷に障るものたちが
開かずの間で蠢いた
心臓の音が不規則に
血脈の流れは蛇行する

信じているものがあるなら
私由来のものだけであって
外部からの刺激に、
応答することは無い

頑なになる
面倒になる
柔軟になっていれば
歪められる経験則が
私の心の外殻となる

泣いてる窓辺にて

かなしきはどこからくる
内からか外からか
わからぬままに
結露するこころ

温度計を見て 
時計を見て
暦を見て 
鏡を見て

かなしく青い指さきは
ひとつずつ忘れはじめる

私を守るもの

青に染まった表紙に
金の留め具をつけて
鞄に入れて出掛ける

冷えた空気が日差しを曲げる
こころが萎えてしまうときに
唱える一節が鞄の中でひかる

たくさん間違えて
たくさん傷ついて
たくさん傷つけて
たくさん悲しくて
たくさん口惜しくて

もうたくさんになる日
増えた頁の分だけの生活

途絶

欲しいのはスケープゴートでしたね
悪に染まる時は気がつかないものです

もう思い出はありません
あるのは記憶だけです

懺悔の声も悔恨の声も
何も聞こえてはきません

もう全てまっさらです
そしてもうまっぴらです

私に出来るのはせいぜい
清々とした気持ちで
生きることです

滅亡吉日

金星が落ちてくる日に
重力と引力が慌ただしく
その場にいる人を捻じ曲げた

破片が降る中を
器用に避ける人々

年賀状を出さなかったな、
気がついたからお正月の事

義理を欠いた自分を
恥ずかしくなりながら
地球の終わりを眺めて

破片はオレンジ色
暗雲と濃い青の空が
涼やかに広がっている

忘却は灰色

灰色の街には赤い傘が映える
微笑の季節に女神は踵を鳴らす

止まったままの時計塔
忘れられた図書館

文面から廃棄されたものが
積み重なって壁になる

途絶えたレールに草が生え
古びた工場から架空の煤煙

この世で一番静かな時間
忘却と沈黙が雪の代わり

あれ以来、帰って来ない

秋季宇宙論

定数に収まらず膨張する
感情と宇宙は関わり合う

心が最小値で最大値であった
無下にした順に滅びる運命

赤い林檎とぶら下がって
世界を逆さまに見ている

地の底で息をしている
未だ発見されていない
神話と化石が天変地異を起こす日

天地開元の改の改
悟りと目覚め
救いと奇跡
予言の外れ

思考の行先

望遠鏡をつくって
電波を飛ばして
手紙を書いて

寂しさのための努力が学問でした

苦しさのための励みが進歩でした

読まれなかったまま
行間は気まずさを増して
宇宙空間を遊泳している

灰のノートは舞い上がる

恥ずかしい心を恒星が照らす
焼かれて凍る誰かの感傷が
あの世ではアートになる

空と虚と

今日は生きていませんでしたね
いつも通り悪夢の中で不謹慎に
つまらぬことに囚われていました

それが天帝の罰でしたか
私の罪の内容は何でしたか

呪う心を抑えて微笑んでも
無意識は恨んでいるからか

抱擁せよと啓示を受けて
幾たび抱擁せしめても
伽藍堂に独り
掴むも空です
虚のままです

未来予知

懺悔、告白、探索
それが効用であり目的
それの真偽を確かめる長い実験

割れたガラスの中から這い出る
古くて新しいものの矛盾に
皆が斬りかかっている日

ビーカーの中で起こる
化学反応は無神経にも
人の一生をひっくり返す

それが私の未来でした
それが私の徒花でした
それが私の言葉でした

臨在

不滅のものが構成していて
私たちは消えることが出来ない

私を私と証明する数式を
灯台の壁に書き記していた

記憶の累積
カルマの蓄積
一斉に波に立つ

北風に冴えるのは心か頭か魂か
はたまた精神と呼ぶものなのか

兎角分類されて
私は細く細くなって
最小単位になる頃に
還る場所、臨在する

古代図書

冷たい朝に横たわる
白紙になった私を見てる

ヒエログリフの返却日
白亜紀から岩の本が届く日

読み耽っては秋は深まる
赤葉の栞をアーカーシャへ

図書館でとこしえの旅をする
ステンドグラスに光る暗号文

真理に触れて
秘密を握って

ひずむ暗闇を眺めていた
東からの光を待っていた

絵画展

作者の真意というものは
アトリビュートの向こう側

本当に表したかったことは
小さなことかもしれなくて
同時に、
それは捉えきれないもので
だから神様にゆだねていた

この心をどうすればいいのか
小さなことに魂は震えている

大きなカンバスの前で
項垂れては、
窓から差す光に祈る断章

三六九

寒空に飛ばしたロケット
パラシュートが降る晴天

天使が降りてくる
白い階段が光って

私は三度願いを言って
私は六度祈りを捧げて
私は九日間眠り続けて

奇跡を忘れた頃に
再び光る空を見た

(既に聞き入れられたり)

(冬の空に見よ、)

円盤が飛ぶ晴天

休耕地に浮かぶミステリーサークル

喜びと望みは

パイプオルガンが
天への階段を構築する

一音一音が確かな徳となるような

心にひとつの音をもて
それが天国の鍵になる

完成された音楽を
昨日までの懺悔を
今日からの告白を
私にまつわる探索を

順番にナイフで切り分けて
白い皿に並べたのなら
新鮮な酒を開けよう

お祝いをしよう、夜明け前に

銀河は杯の中に

一寸先が闇ならば
幾里か先の見聞を

天文学的数字の前
近似的感覚を解く

可能性とするか
創造性とするか
想像的であるか

円の中にある星
縁の中に会う人
宴の中にひとり

とてつもない解離の中
いつも繰り返す一節が
悠久の寂しさ紛らわす

幾里か先を盃の中に見る
星が見える夢を見てる

白黒映像

モノクロームのローブを着て
コオロギと一緒にないている
蒼白の顔は月明かりに怯えて
震えた先に稲光の幻を見て
スズムシが飛び出した農道にて
心細い散策は暗雲に脅かされる

土の中に戻るには
歩き過ぎた道のり
翅は透き通るから
何も抵抗は無いと
節操なく映される
景色は鈍色をして

星の瞬き、移る視点

星が見えます曇り空
アンドロメダ座煌々
重い雲の向こう側で
α、β、Γ、
α、β、Γ、
α、β、Γ、
揺れているのは足元です
私のおぼつかない思想にて
星々は遊んでいるのでしょうか

秋の夜長にも太陽は燃えている
海は轟く、波は叫ぶ、日は昇る

真昼の祭り

祝祭の日に天から伸びてくる光
傘の骨のようにしなやかに
地上を包み込んでいく

万華鏡が飛ぶように売れる
鮮やかな生地はスカートになってゆれる

異国情緒が彩度を増してゆく
舶来の金貨が回転をはじめる

ハーブのお酒を飲んだら
原っぱでみんな昼寝する

真昼の花火を夢で見る

秋季宇宙論

秋季宇宙論

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-10-24

Copyrighted
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Copyrighted
  1. 宙の鍵盤
  2. 閉じてゆくもの
  3. 泣いてる窓辺にて
  4. 私を守るもの
  5. 途絶
  6. 滅亡吉日
  7. 忘却は灰色
  8. 秋季宇宙論
  9. 思考の行先
  10. 空と虚と
  11. 未来予知
  12. 臨在
  13. 古代図書
  14. 絵画展
  15. 三六九
  16. 喜びと望みは
  17. 銀河は杯の中に
  18. 白黒映像
  19. 星の瞬き、移る視点
  20. 真昼の祭り