十四日夜月

 そっと、ふれた。
 からだをつくる、肉のやわらかさ、骨は、しっかりときみを支えて、血の色は濃く。にんげん、という生きものに、えらばれた、わたしたちのいちばんよわいところを、えぐるように、世界は時として、残酷だった。
 雨の降る夜の交差点で、だれもいなくなる刹那、永遠のなにかを祝福するみたいに、女の子たちが歌う。やさしい歌だ。やさしいけれど、かなしい歌だ。しんじていたものにうらぎられても、しんじることをやめない、それがまるで、うつくしいことのように、したてられている。

 ある秋。
 金糸雀とふたりで、月をみていた。
 かれは、ときどきしか、やさしくないけれど、ときどきのやさしさが、深かった。
 高いところから見下ろす、街は、よくいうところの、ジオラマちっくであり、行き交うひとびとは、アリ、を想わせ、車やバス、電車は、こどものおもちゃみたいだった。わたしたちにはちょっとふつりあいな、三十七階の部屋は、あまりにも広すぎて、さむかった。空調の問題ではなく。
 ベッドに寝転んで金糸雀は、たいくつそうにあくびをした。
 わたしはまだ、月をみていた。
 それから、わたしたちがにんげんにえらばれた理由をおしえてくれるひとに、いつか逢ってみたいと思った。

十四日夜月

十四日夜月

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-10-19

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