こわれていく

 せんせいに。
 花の首輪をあげる。

 にんげんの、負の感情を吸収した真夜中の、色。しらないあいだにつぶれていた、コンビニエンスストアのかたすみで、放置された公衆電話が朽ちて。荒んでいく街で、夢みたいなことばかり語っていたひとびとは、みんな、夢の中から出てこられなくなった。せんせいに似合う、白い花の首輪。ハッピーエンドの物語をもとめて、衛星放送のテレビのチャンネルを、むやみやたらに切り替えてる。となりにせんせいがいるのに、ただ、無性に、むなしい夜。
 いずれは、廃墟となる。
 ぬけがらとなる。
 でも、だいじょうぶ。つよいから。どこでだって、生きていける。
 夢幻の住人となった、ひとたち。冷凍睡眠したまま、宇宙に放り出された、ひとたち。地下シェルターで、密やかに呼吸をしている、ひとたち。ぼくだけのものになった、せんせい。

 月が、きれいだと思った。
 月をうつくしいと感じるような情緒が、まだ、じぶんにもあるのだと安堵した。

こわれていく

こわれていく

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-10-18

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