夜の工場地帯

あおい はる

 けむりがみえる。工場のえんとつだろうか。あの、向こう岸の街には行ったことがない。テレビのなかでしか、しらない。すべてがオートメーション化した、機械都市だ。にんげんがいないときく。ひとりも。つまり、工場も、全自動でうごいている。けむりを、はきだしている。なんの工場なのだろう。なにをつくっているのか、わからない。わからないけれど、べつに、しらないまましんでも、かまわない。
 テレビからは、悲鳴。
 ドラマを観ていた。こわいやつなのだと、モリはいった。ホラー的なやつではなく、にんげんの、どろどろしたかんけいを、なまなましく表現したもので、あとあじがわるそうだと思った。ゆうれいより、にんげんの方がこわいよ。モリはそう呟きながら、チータラをもりもり食べていた。ビールではなくて、カルピスを飲んでいた。チータラなんてかわいくないものを好むモリのことを、メメは、ざんねんだといっていた。メメはマカロンを肴に、ワインを飲むのが好きなのだ。
 改造されて、機械のからだになるのと、ウエハースのからだになるのと、どちらがいいのかしらと、アルバイト先のひとが、くそまじめに悩んでいて、わたしは、どちらもいやにきまってると思いながら、なにもいわなかった。わたしがアルバイトしている本屋さんには、ときどき、機械都市に住んでいると思われるひとが、本を買いにやってくる。機械のにんげんも、本を読むんだねぇと、副店長のタマイさんが感心していた。機械にんげんは、小説も、実用書も、旅行書も、レシピ本も、一度にたくさんの冊数を購入した。きっと、本が好きなのだろう。静かな店内に、機械にんげんがいるときは、微かなモーター音と、あぶらをさしわすれたのか、きしむような音が、するのだった。
 メメはいま、南の島にバカンス中である。恋人と。おいてかれたモリは、やさぐれるかと思ったけれど、通常運転のモリだった。むしろ、メメの視線を気にせずにたばこをばかすか吸えて、うれしそうだ。
 わたしは、部屋のベランダから、夜になると青緑色の光が灯る、機械都市を眺めながら、とうとつに、だれかと恋愛したいと思った。
 だれかを好きになって、好きになってもらって、好きだといって、いわれたいと思った。

夜の工場地帯

夜の工場地帯

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-10-13

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