山小屋3
(山小屋2の続き)
目の前に現れたのは、黒縁眼鏡がよく似合う日焼けした中年男性だった。
「迷いませんでしたか?店のマネージャーをしてます、鈴谷です。どうぞおかけ下さい。」
優しい眼差しと低い声が心地良い。
「はじめまして、朝里と申します。途中、道が細くなって、運転に慣れていないので少し緊張しました。」
と言うと
「そうなんですよ、あの細くなる所…あそこはここが出来る前は車両通行止めだったそうですよ。あそこから森に包まれる感じ、しませんでした?」
確かに、あそこから暗くなって心細く…
「あ、そうですね、聖域に入ったような気がしますよね…」
と、言い方は色々。しかし、聖域が良かったのか、鈴谷さんの目がキラっと光る。
「僕も、僕もあそこから空気が変わる特別な感じが好きなんです。」
と言いながら、店に関する資料を出してきた。
「ここのオーナーは、もう他界しています。私たちはオーナーの意思を継いでこの店を運営しています。できるだけ自分たちの手で、自然のままで、物や素材にこだわる手作りの店です。実は、この建物にもこだわりがあって、古くて取り壊される民家から使える資材を集めて造られてるんですよ。オーナーが、古く使い込んだものに価値がある、と言っていたそうです。」
と言って、説明してくれた。
『なるほど…』
柱に窓、ドア、どれも個性がい。そして、どれも綺麗に手入れされている。オーナーの想いは受け継がれている、私はその担い手に相応しいのだろうか、と不安になった時。
「朝里さんは、導かれてここに来たんだと思います。大丈夫です、一緒に作って行きましょう。」
と言う鈴谷さんの濃い栗色の目に誘われて、雇用の説明を受けていた。
続く
山小屋3