偶然なのかなぁ

マチミサキ

二、三日前に
たまたま
虫干しも兼ね
古書を繙いておりましたら

そこに
なんとも気になる一文が。

おっとぉ

その前に
そこに至る経緯を先に少しお聞き下さいませ。

数年前の夏真っ盛りのワンでい
私は
と、あるハイキングでも
有名な某山の登山道をひた歩いておりました。

単独行です。

アホで孤独の孤高ですので。

そうした中
ほどなく
中腹に差し掛かり
だいぶん
濃くなっていた緑に隠されるように
それでも
確かな存在を主張する沢のせせらぎの音に
気付きました。

・・・・

そりゃあ
登りの登山道、真夏汗だくの中で
あんな涼しい音を聞かせられたら
分け入りたくもなるでしょうけど!

いつもの如く
わたしの脳裏に浮かんだのは


━━罠だな!━━

そう
間違いないと確信。


生来の気質、疑い深い
私はけして
ハイキングコースからは
外れませんでしたが

私のすぐあとから
来ていた
いかにも爽やか三組みたいな
大学生くらいの男女入り交じり
五人くらいだったと記憶しておりますが

このグループが
コースを外れ
その薮の中へ入ろうとしていたのですよ。

注意力とリスク管理がまるで無し。

自然界の掟として
そういった個体や集団は淘汰されるのが当然

むしろ弱きこそを助け合うと謳う
私達人間がおかしい。

というのが持論の私でありますが

ふぅー

えっ?!

だめだよ!
危ないよ!!

と不覚にも思ってしまいまして
他人ではありますが
それでも
注意を促すべく
らしくなくは承知で
良い人ぶるか、
そう
声を掛けようと
そちらに足先を向けたところ

その中の数人に
極小の蛍のような無数の光が
まるでたかっているように
見えました。

これは表現力に乏しい私には珍しく
我ながら上手く表現出来たとおもいますが
よく
立ちくらみとかで
目の前に星が飛ぶみたくなるとき
あるでしょ。

漫画でよくあるような。

まさしく
あんな光、星が回る
と言った方が良いかな、です。


しかもこの光
薮の中から細い幾つかの糸状で
その数人に伸びていたのですよ。

覚えているのは
何故か憑いているのは男性だけでしたね。

もう
誘い込む気マンマンですよこれは。

ヤバすぎる。

しかも
これも
例の如く
たぶんその挙動から察するに
見えてる、
いえ、
視えてしまっているのは
この場ではたぶんわたしだけ。

それも
わたしの体調不良や疲れから
来ている幻覚かもしれませんけど。

しかし
とにかく
そんな藪に入るのはよくない。

一見
メジャーなハイキングコースであっても
この山での行方不明者は毎年出ていますし
最悪のケースに至った事も少なくないのです。

いわゆる【道迷い遭難】というやつの
切っ掛けにしか見えませんでした。

夏場という事もあり
あんな軽装で
イザという状況に対処など出来る筈もない。

脳も足りなければ
危機感も足りてない。

ひどいこといいますが
だってホントですもん。

わたし
基本的に薄情なのですけど

さすがに
今まさに目の前に居る連中がそうなられると
寝覚めが悪いので。

とかいいつつ
そうなったらそうなったで
いつも通り美味しいごはんをいただけるであろう
確たる自信は
おそらく変わりませんが。

とはいえねぇー

わたしは悪くないのに
このままスルーだと
何故か数ナノ程の良心の呵責を感じる。

ように
教育されてしまった。

損してるなぁ。

しかし
ばかな連中に注意しても
おそらく聞き耳も持たぬどころか
理解も及ばず恨まれても嫌。

そもそも賢ければ
そんなことしません。

そういう人には
正論で諭しても無駄な気がしまして。


で、我ながら
悪趣味ですが
スマホを取り出し
マムシだのハブだのスズメバチだのムカデだのに
咬まれた患者さんのちょっと
ショッキングな患部を見せ

いずれも
このすぐ付近で藪に入ってやられた!

みたいな出任せを
オーバーアクションで大袈裟に言って
諦めさせたような記憶があります。


まあ
この時はそれだけの話だったのですけど
ここからが冒頭の文に繋がります。

江戸時代の
関宿藩の方が遺したものらしいのですが
この蛍の様な光に
状況も含めてかなり酷似する記述が
ございまして。

どうもこの光、
【 牛 鬼 】
に関係するものらしいのですよ。


クールを装いつつ
本音は



あ、あのでででですね

うしおに・ぎゅうき

っってったら
もー
遭ったらお仕舞いくらいの
超凶悪な怪異ですからね。

日本最凶クラスですよ。

残虐ファイトの権化みたいな。

アーハイハイワカリマンタワカリマンタ

でしょ
こんなん言ったってどーせ
あなたがたときたら。

賢人が残してくれた
昔からの戒めも
ちゃんと聞こうとしない人が多すぎる。

それが
その真実が解明されずとも
本当に妖怪だのオカルトであろうと
なかろうと
ともかくとても危険だからそうしてきて
避けるための
それが風習であり慣わしという事例は
幾らでもあるのです。

しかし
この古書には初めて知った
この牛鬼蛍の祓い方も載っていて
勉強になりました。

偶然でただの迷信だと
嗤われればそれまでですけど

この古書の名は

【 異説まちまち 】

っていうのですよ。

だから
わたしも手に取りました。

これも偶然かなぁ。


追記
この牛鬼蛍は相当な執念深さで
払っても払っても
いわゆる粘着気質で
なかなか離れないそうで

それを【祓う】には
囲炉裏の火で炙るとよいそうです。

あの時の若者さん
まだその憑き物が落ちてなければ
自己責任にて御試しください。

たぶんそれ
罠や誘導役も兼ねた
牛鬼のロックオンですよ。

偶然なのかなぁ

偶然なのかなぁ

バケラッタ番外編かな。

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-10-12

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