普通列車

みんな、電車に乗っていく。

みんな電車に乗っていく。
その電車はゆっくりと進んでいく。その車両はとても息苦しい。おかしな行動をとる者がいると、他の者たちは一斉に銃口を向けるのだ。息苦しい。そんな電車で多くの人は桜が12回ほど散るのを見るであろう。
そして青い花が散る季節になると、それぞれが次の車両へと歩き出す。どうやら革靴を履き、黒服を着て変装をする者が多いみたいだ。あんなに鮮やかであった彼らの姿はもうどこにもない。みんな同じに見える。そして彼らはまた、同じ車両に留まる。何かに繋がれているみたいだ。
僕はただ、降りたい。この普通列車を降りたいのだ。ただ降りたら消えて無くなってしまう気がするのだ。だから降りることができなかった。終点にはいつ着くのであろうか。僕より先に乗っていた人の何人かはもう終点に着いてしまったようだ。終点までこの息苦しい車両に居なければいけないのであろうか。何が正しいのか、どうすればいいのか分からない。

そうだ、勇気を出して次の駅で降りてみよう。消えてしまうかもしれないが、降りてみよう。この息苦しい車両にいるよりかはましだ。ずっと同じ景色を窓から見ているなんてつまらない。

次の駅だ、降りるんだ。

列車を降りても私は消えたりなんかしなかった。ただ列車の外の世界は窓から見ていた景色よりも遥かに美しく、そして広かった。青い花もまた咲き出した。どうやらこの世界には道なんてなかったみたいだ。だからこそ自分の足で世界を歩いていかなければ。それが生きるということなのだから。

普通列車

普通列車

  • 随筆・エッセイ
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-10-12

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