ガーデン

 かみさまたちの庭が、あるという。それは、空のうえにあるのだろうか?わりとなんでも知っている、喫茶店のあらいぐまにたずねたところ、かみさまたちのことはひみつがおおいから、わからないなぁ、と答えた。わたしは、そうなの、と言って、ホットココアをのんだ。まだ、夏の余韻がただよっているけれど、もう、ホットココアのきせつでいいでしょと、わたしは思って、ホットココアを注文した。あらいぐまは、ココアといっしょに、ジンジャークッキーを出してくれた。ハロウィンもまだなのに、なんだかクリスマスみたい、と思った。あらいぐまは、わたしがいる席の左、ひとつ空けたスツールに腰かけた、スーツの男のひとの注文をききながら、うれしそうに微笑んでいる。うれしそうにみえるのは、あらいぐまが、この、めがねをかけている以外、然して特徴もない、世間でいうところの、平均的な一般成人男性に好意を抱いているからであり、わたしは、それを知っている身であり、ときどき、あらいぐまの恋の相談にも、のっているからである。あらいぐまも、人並みに恋をするんだ。驚いて呆けるわたしに、あらいぐまは、あたりまえだよ、と苦笑していた。繁殖機能が備わっているのだから、と、あらいぐまは続けたけれど、にんげんでも、あらいぐまでも、同性同士では、それは意味をなさないのでは、と、わたしは思った。まだ片想いなのに、繁殖云々をもちだすところが、すこしだけなまなましい、とも思った。思ったけれど、だまっていた。
 かみさまたちの庭のことは、ともだちからきいて、ともだちは、白いワニからきいたという。そのともだちのお姉ちゃんが、白いワニと親友なのだそうだ。たまに遊びにくるよ、どちらかといえばお姉ちゃんが遊びにいくことの方が多いけど、うちにきても、ワニさんの家に行っても、お酒ばかり飲んでるみたい。かみさまたちの庭には、うつくしいにんげんしか足を踏み入れられないらしい。身も心も、うつくしいにんげんしかダメとのことで、じゃあ、現代人でこの庭に入れるひとは、とてもレアなのでは、というのが、わたしと、ともだちの見解だ。そう言うと、あらいぐまは、かみさまがそんな差別的でいいのかねぇと、おばあちゃんみたいな口調でぼやいていた。たしかに、とも思ったし、でも、かみさまとおなじ空間にそんざいできるのだから、やはりそれ相応のひとでなくてはいけないのだろうと、納得もしていた。みんな、みたことないはずなのに、最上級に敬われている、かみさま、というひとたち。
 めがねのスーツの男のひとのまえに、コーヒーカップが置かれる。男のひとは、ありがとうございますと言って、あらいぐまは、はにかんでいる。淹れたてのコーヒーの香りが流れてくる。
 あらいぐまのことを、この男のひとが好きになる可能性はあるのだろうかとかんがえて、でも、こういうのはかんがえてもわからないものだと、わたしはすぐにあきらめた。

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-10-10

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