恋した瞬間、世界が終わる 第6部 赤い星

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恋した瞬間、世界が終わる 第6部 赤い星

第6部 赤い星 編

第39話「透けたカーテン」

第39話「透けたカーテン」

 ある頃から、わたしは
 「アリュール」を身につけることをやめました


わたしに訪れた変化は、性格すら変えました

それはココとの別離を招くことになりました


GIとの密な関係があったのです



高級クラブの客足は「新型マナヴォリックウィルス」の影響をあまり受けることはなかったです。
もともと、個室がメインの職場環境で密になることはありませんでした。
感染対策はされていましたが、結局、会員制という信頼関係の基盤の元で行う商売です。
売り上げの低迷もなく、わたしの業界は延命されたのです。

その日、ココは用事のため職場を休んでいました

わたしは出勤日だったので、いつも通りクラブの開店準備を手伝っていました。
本来、開店準備はボーイの仕事なので携わる必要はありません。
ですが、わたしの戦略がありました(というと聞こえは悪いのですが)。
開店準備の段階で何をどこに置いて、自分をどう引き立たせるか。
その微調整がわたしの売り上げを伸ばす手段にしていたのです。
これは、わたしの発見でした。

ママやココには“目をつぶってもらった”というよりも、
たまたまわたしが微調整した花の生け方が彼女たちに好評でした。
素質を買われたわけです。

「あなたが生けると、魅せているものの本体がこの場の何処かにあって、
 それを探し出してみたいと思う気持ちを引き起こすように感じるわ」

これはママが云ったことですが、
来店されたお客様からも好評を得ているとの理由が大きなものでした。

わたしは、花を活かしたのか
それとも、花の香りの先を示したのか


GIからも好評を得ました

「これを生けたのは、ママではありませんね?」

お客様を迎い入れる花を生けるのはママの仕事でしたが、
それがわたしの仕業であることに自ら気づいたお客様はGIが初めてでした。

「あの女性ですか」

ママが嬉しそうに、わたしの仕業だとGIに伝えた後、そこから密な関係が始まったのです。
すでにココを交えての接客で面識はありましたが、その場限りで終わる会話にしか至らないお客様でした。
それが変わったのが、その時でした。

ココが休みだった為、わたしが接客をしました。
なぜ、ココが休みの日にGIは来たのでしょうか?


ママは云いました

「今日はココが居ないけど
 GIは、あなたを指名してきたのよ
 花を生けたあなたの素質を一番に見つけたのは
 GIなのかもしれないわ」

わたしは個室で接客をしました。
そこは特別な個人を招く個室になっていました。

「あの花を生けたのは、どのような理由で?」

わたしはGIの飲み方をすでに覚えていました。
指示なく置いても支障のない面識にはなっていたのです。

ただ、その日はグラスに注いだ氷の量を誤ったのです

「理由…ですか」

わたしの手元が狂い、普段よりも多く氷を入れてしまいました。

GIが手元に置いたグラスを手に取ろうと飲み口を探したとき

「あっ! ごめんなさい!」
 
わたしの手がGIのグラスへと伸びました

しかし、GIの動きに無駄はなく。
すでにグラスを左手で掴み上げていました。

掴み上げていたグラスに、わたしの手が当たり。
GIの左手からグラスが離れ、テーブルの上で転がりました。

わたしは慌てて、GIの高級なスーツに飲み物が掛からないようテーブルの端におしぼりを当てました。
おしぼりを当てたわたしの手の先に、GIの右手が重なりました。

その感触には、暖かみを全く感じませんでした

得体の知れない手に触れてもわたしは驚くことがありませんでした。
そして何故か、わたしはその右手に触れた自分の手を離さないまま手を重ね合わせていました。
GIの香水の落ち着き払った官能的な匂いが、この時、わたしを落ち着かせていたのです。

わたしは、GIの青い眼に心の動向を覗かれているように感じました。
眼と眼を合わせてしまったら、わたしはそのまま身を委ねてしまう。
そう感じて、女としてホステスとして、最後の一線を引く意識が働いたのでしょうか。
薄いカーテン1枚を引いて自我を繋ぎ留めることに集中しました。


「あなたをもっと、知ってもらいなさい」


GIは一枚の薄いカーテンを崩すように払い除け、わたしの眼は完全にGIの下へと連れ出されました。
わたしの無防備な手は、GIの膝へと置かれました。
そして、腰をくねらせ、宗教的な意味合いの産物のように。
行為が意味を持つように。

「…わたしを知って下さいますか?」

女でしかなくなったわたしは、自分が身につけた香水の匂いが邪魔になりました。
“アリュール”は、その瞬間で不必要なものに変わりました。
GIの言葉は、わたしの奥深い欲求を全身にまで表面化させた匂いまで解放させたのです。

メトロポリスの悪魔を、もうわたしの全身で纏いました

黒い服を手に取るように



明くる日、わたしはココとの共同生活へ戻ることはありませんでした。

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  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-10-10

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