一方通行

一方通行

 そう、まるで夜空のようだ。君の綺麗な大きい瞳。真っ黒なその瞳で見つめられると、僕はその中へ身体ごと吸い込まれてしまいそうな感覚を覚えるんだ。ああ、今にも吸い込まれてしまいそうだ。できれば、できれば僕を見ないで欲しい。けれど、僕は君といつまでも見つめ合っていたい。ああ、どうするべきだろう。

「……夜空? これは、瞳孔」

 いや、僕は僕を見つめる君に吸い込まれて、僕という存在がこの世から消えてしまっても構わない。だって僕は君に見つめられたら、それだけで幸せなんだから。僕という存在が、君に見つめられてこの世を超えた永遠の存在になれるとしたら、それはつまり永遠の幸せだ。

「永遠なんて存在し得ないのに」

 ご覧。綺麗な夕陽に照らされた、真っ白な鳥が空を飛んでいるよ。自由に空を舞う姿を見る度に、僕はいつもこう思う。鳥になれたらいいな、って。風に乗って、どこまでもどこまでも遠くへ飛んで行きたいな、って。

「……どこまでも?」

 どこまでも。陸も海も国も関係ない、どこまでもどこへでも飛び続けるんだ。空の上で気持ちよく飛びながら、小さく小さく見える人間たちがせっせと働く様子を見降ろして、窮屈で間抜けな動物だなあ、と思うんだ。どうだろう、君も鳥になってみたいと思わないかい?

「幼児的万能感」

 そうだ、君にプレゼントしたいものがある。……ほら、これを見て。綺麗なネックレスだろう? 君によく似合うと思って。銀座中を探し回って、やっとこのネックレスを見付けたんだ。美しい君には、美しいものが似合う。そしてより美しくなる。相乗効果ってやつだ。

「……猫に小判?」

 ほら、付けてみて。きっと似合うはずだよ。……うん、とてもよく似合っている。写真に残しておこう。今日のこの日は、僕と君にとって永遠の祝福の日になるんだ。君にはこの意味が分かるかな?

「……馬の耳に念仏?」

 二人がいずれ年老いてもこの時をずっと忘れないように、写真に収めておこう。千二百万画素のデジカメだ。これで綺麗な今の君を、綺麗なまま永遠に残すことができる。さ、撮ってみよう。ほら、笑って。……上手く撮れたみたいだ。どうかな、ネックレス。似合っているだろう? 似合っているよ。やっぱり綺麗だ。君は世界で一番、美しい。僕はそんな君をいつまでも見続けていたい。君と一生を共にしたい。……結婚しよう。

「ださいデザイン」



 彼女は、目を閉じ、真っ白な美しい顔をしながら、ほら、うっすらと笑っている。その白い首元で、真新しいネックレスがきらきらと輝いている。彼女は、僕のプレゼントしたネックレスをとても気に入ってくれたんだ。そうだ。そうに違いない。だって、僕が汗水流して寝る間も惜しんで毎日へとへとになるまで働いて、五年間貯めた分の金で買ったネックレスだもの。僕の分身と言ってもいい。気に入ってくれないはずがない。
 僕と彼女は、明日から新しい人生を歩み出すんだ。今夜はきっと、素敵な夜だ。一生、いや、永遠の思い出に残る、記念を越えた記念の夜に違いない。



 ほら、目を開けてよ。さっきの綺麗な大きい瞳で、僕を見つめてよ。ねえ。そう言えばまだプロポーズの返事を聞いていなかったね。ほら、いつもの笑顔で、優しい笑顔で、僕のプロポーズに答えてよ。答えを、聞かせてよ。
 ……もしかして、もう寝てしまったの?

一方通行

一方通行

彼女は、僕のネックレスを、気に入ってくれたに違いない。

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更新日
登録日
2012-12-06

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