俎板の上の、

あおい はる

 エクレアの、カスタードクリームのやわらかさにうっとりしているあいだに、ちょっとだけ、きみのことをわすれた。
 いいんだよ、たぶん、わすれたほうが、このまま、もう、一生おもいださなければいいのに。エクレアをたべおわってしまうと、すぐに、ぼくのからだのなかを、きみが支配する。形。輪郭。体温。ふくらむ。

 おわるね。
 あらゆるものが、おわっていく。
 そして、おわっていくそばから、はじまっていく。
 おわりと、はじまりは、常にセットである。
 一心同体。
 表裏一体。
 からだのなかから、きみに、なでられる感覚。骨をはう、きみの指。臓器にふれる、きみの指。血管や神経をかすめる、きみの指。くすぐったいほどにやさしくて、ひどい。しにそうなくらい、くるしいはずなのに、ばかになりそうなくらい、きもちいい。
 まよなか。
 ベッドのうえで、きみに植えつけられた快感を吐き出すみたいに、泣く。まどのそとを、蝶がとんでいる。

俎板の上の、

俎板の上の、

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-10-08

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