きみのて
よく見知った教会が視界に広がる。
中には椅子の下に隠れるデビトとパーチェ、そしてそれを探している幼い私。
どこか俯瞰的な眺めに、自分が夢を見ているということに気がついた。
幼い私は困ったように二人の名前を呼びながら、一つひとつ椅子の下を見て回っている。
しかし少し先から物音が聞こえ、そこからは気付いていないように装って少しずつ椅子に近づく。
「二人とも、どうしてしっかりと掃除ができないのですか!これでは牧師さんに怒られてしまいますよ!」
今まで困ったように名前を呼んで探していた私が、いきなり大声で椅子の下を覗きこんだことにより
二人はびっくりした様子を見せる。
「あー見つかっちゃったぁ・・・」
「お前が落ち着きがねーからだろ、パーチェ!」
言い合いをしながら椅子の下から出てくる二人。
「さぁはやく!あともう少しで牧師さんが様子を見に来るのですから」
ぐいぐいと二人の背中を押し、掃除用具を握らせる。
「まったくルカは説教くさいんだよ!」
「ルカちゃん、そんなんじゃあっという間にはげちゃうよ~」
「あははは!そういや、俺この前見ちまったんだけど、こいつ鏡の前で自分の頭を熱心に見てたぜ!結構自分でも気にしてるんだろ!」
デビトがからかうように言うと、パーチェはやっぱり~などと言いながら私の髪の毛に手を伸ばしてくる。
「何でたらめなことを言ってるんですか!パーチェ!髪を触ろうとしない!」
その手を遮ると、さっきよりも数倍大きな声で彼らをまくしたてた。
こうしてふざけながらも教会を掃除しはじめる2人。
その姿に私は懐かしさを覚える。
あっという間に過ぎ去ってしまった日々―・・・
でもなによりも穏やかだったあの頃―・・・
思い出に浸っていると、視界がぼんやりとしてきた。
それに引き換え、どこからかかすかに声が聞こえる。
「・・・カ、・・・ルカ・・・」
次第に鮮明になる声にまだ重い瞼を開けると、そこには大きな瞳で私を覗きこむ愛しい人が。
「お、嬢様・・・?」
「ルカ!」
お嬢様は私と視線が合うと、そっと手を握ってくる。
その温かい温もりを感じながら、なぜ彼女が私の部屋にいるのかという素朴な疑問について考えを巡らせる。
「お嬢様・・・なぜ?」
「毎日ルカに起こしてもらってるから、今日は私が起こしたくて・・・」
「え?」
未だ頭がまわらない私に、にっこりと微笑む。
「ルカ、お誕生日おめでとう。一番に伝えたかったから、今日は早起きしちゃった」
そう少し照れたように目を伏せたフェリチータを見た瞬間に、一気に愛しさがこみ上げてくるのを感じた。
12月の冷気に冷やされていた手が、フェリチータの体温で温まっていく。
「あ、ありがとうございます」
いつもならばベッドに横になっているフェリチータを私が優しく起こすのが当たり前だが、今日は立場が逆になっている。
そんな図にあらためて笑みをこぼすと、自身も彼女の手をしっかりと握りなおした。
ああ、私は幸せ者だ。
幼い頃は賑やかで穏やかな日々を、そして今は愛おしく温かい日々を彼女と過ごしているのだから。
また1つ歳を重ねるごとに、大切な思い出も増えていく。
それがとても幸せなことだということに、彼女が気付かせてくれた。
「また1年、いやこの先もずっとお傍にいさせてくださいね、お嬢様」
Fin
2012/12/6 ルカ、ハッピーバースデー!
きみのて