見えない羊

 羊飼いのトト、ゼブ、カールの3人が、村長に呼ばれて村役場に集まった。
「さっそく用件に入るが、実は昨日、ヨセフ爺さんが亡くなった」
「え、本当ですか。この間まであんなに元気だったのに」
「市場で急に倒れて、そばにいた者が急いで病院に連れて行ったが、手遅れだったそうだ」
「そうですか。賢くて、よい人でした。残念です」
「息を引き取る間際に、医者にこう言い残したそうだ。『私はもう助かりはしないだろう。身寄りのない私に、近所に住んでいるトト、ゼブ、カールの3人はとても親切にしてくれた。私の財産といえば羊だけだが、これを3名に分け与えたい。トトには2分の1、ゼブには3分の1、カールには7分の1を与える』これがヨセフ爺さんの遺言だ。残された羊の世話をしなくてはならないので、葬式の前にこの件を片付けておかなくてはならない」

 4人は連れ立ってヨセフ爺さんの牧場へ行った。トト、ゼブ、カールは羊を数えて首をかしげた。羊の数が、41頭だったからだ。
「41頭だ。間違いないか」
「僕も41頭だ。間違いない」
「2でも3でも7でも割れやしない。ヨセフ爺さん、もうろくしたかな」
「まさか、あんな賢い人だぜ。1匹逃げたんじゃないか」
「あの柵を見てみろよ。しっかりした柵だぜ。逃げ出せるもんか」
「それにしても、困ったな。爺さんの遺言だ。ないがしろにはしたくないが」
 3人が話し合っているところへ、村長が口をはさんだ。
「どうした、話はついたのか」
「村長、羊が41頭で、分けることができません」
「ちゃんと数えたのか」
「3人とも41頭だと言っているんです。間違いありません」
「そこに1頭いるじゃないか。そいつは数えたのか」
 村長は3人が立っているそばを指差した。しかし、そこには草が生えているだけで、羊などいなかった。
「羊なんか、いないじゃないですか」
「いや、そこにいるだろう。お前たちには見えないのか」
「どうしたんです。村長までおかしくなってしまったんですか」
「いいから、そいつを勘定に入れて、もう一度計算してみろ」
 村長が言い張るので、3人は仕方なしにもう一度計算した。
「えーと、その、なんというか、この見えない羊を加えると42頭だから、トトが2分の1で21頭、ゼブが3分の1で14頭、カールが7分の1で6頭です」
「全部で何頭だ」
「21と14と6で、41頭」
「元が42頭だから、1頭余るな。それじゃあ、この羊は、わしがもらっていくとしよう。まったく、ヨセフ爺さんはおもしろい人だ」
 3人は顔を見合わせた。村長は「爺さんの大事な羊だ。しっかり世話しろよ」と言い残し、去っていった。見えない羊が、村長の後をトコトコとついて行った。

 おわり

見えない羊

見えない羊

とっても短い、パズルのようなお話です。

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2011-04-16

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