一直線

雪朔 凜翔

彼女は、力の限り、地面を蹴った。
正直、かなり足は痛かったが、それどころではない。本当に、それどころではないのだ。
綺麗にメイクされた顔。整えられた髪。可愛い洋服。
どれも一人の男性のために、揃えたものであり、それ以外で使うことはない。
けれど、それも、先程の一瞬で終わりを告げた。
(なによっ、!なによ!なんなの!!!!)
涙を溜めて、ガンガンと地面を蹴っている。人がいるのにお構いなしだ。
(頑張ったのに!すごく頑張ったのに!!!)
元々、彼女は、こんな綺麗な姿をするタイプではない。
家では、高校時代のジャージを着ているくらいだし、好きなものはオシャレではなく、ゲームをすることだ。
そんな彼女が、頑張ったのには、理由があった。
(なんなの!あれ!ムカつく、!)
先程まで一緒にいた男性に振られたのだ。しかも、微妙な理由で。
『恋人になっててもおかしくないけど、そんな風には思えない。』
もっとマシな理由があった気がするのだ。せめて、顔だの性格だの言ってくれた方が、まだ諦めもつく。
頑張っても見てもらえないなら、頑張らない方がいいと思い始めたところで、彼女は、バチンと自分の頬を叩いた。
(ムカつくけど、いい。そうしたのは自分だし、腹立つけど、頑張ると決めたのは自分。)
人のせいにして良いことではない。けれど、どんなに地面を蹴っても、頬を叩いても、溢れた涙が止まるわけでもなくて。
オシャレなんて興味もなかったし、自分の外見なんて気にしたこともなかった。だから、初めてのことで。
嬉しかったのに、とても悲しかった。
(何がダメなのよ。可愛くなかった、?)
友達に教えてもらったメイクや、服装は、自分じゃ、とても可愛く着れる自信なんてなかった。でも、挑戦してみないことには、分からなかったから、着てみたのに。
少し付いた自信も、これじゃ総崩れだ。
涙が止まらないまま、立ち止まって、俯いた時、綺麗な声が上から降ってきた。
「めっちゃ泣くやん。どうしたん、大通りで。」
「彼氏にでも振られたんじゃない?」
二つの声に、目を瞬かせて、上を向くと、キラキラと光る金髪と、ド派手なピンクの髪が見えた。
「うっわ、酷すぎん?その顔。」
「化粧崩れてる。もー。」
金髪の男性は、引き気味で、ピンクの髪の女性は、バックからメイク落としで、綺麗にメイクを拭き取ってくれた。
「あれ?別に、そんなに厚塗りしなくても、可愛い。もったいない。」
「なん?初心者なん?」
二人の会話について行けず、黙ったままでいると、女性の方が、彼女の手を握った。
「とりあえず、カフェでも行こ!良いところ知ってるんだ!私!」
そう言って連れて行かれたのは、すごく落ち着いたところで。
人が多くないのは、ありがたかった。
「はぁぁぁ、なるほどねぇ。」
どうせ行きずりの関係だ。詳細を全部話せば、二人は、神妙な顔をしながら、話を聞いてくれた。
「でも、嫌だねぇ。中途半端じゃん?それなら、振って欲しいよねー。」
頬杖をついて、女性が同意してくれる。
同じく女性だから、このモヤモヤ感をわかってくれるのかもしれない。
「為咲(イサキ)は、どう思う?」
金髪の男性は、為咲というらしい。彼は、こちらを見て、ため息をついた。
「知らねーっての。俺に、その男の気持ちなんてわかんねーし。花織(カオリ)と同じで、中途半端、しまんねぇ奴だなとは、」
「為咲としては、どう?男としては中途半端なヤツかもしんないけど。」
花織に聞かれて、為咲は、花織と彼女を交互に見て、また、ため息をついた。
「大事なんじゃねーの?」
ボソッと言った言葉が信じられなくて、彼女は、ポカンとした。
「え、?」
為咲は、息を吐き出すと、ガシガシと頭をかいて、ヤケクソと言わんばかりに言葉を紡いだ。
「だーかーらー。好きだから、無理なんだろって話やん。」
「はーーー?どういう意味?」
花織が、首を傾げれば、
「恋愛ってのは、長く続かねーだろ。深い繋がりにはなるけど、終わんのも早い。やけん、友達のまま、維持したいってことやない?」
と、答えれば、花織は、ますます不貞腐れた。
「意気地なしやん。」
「言い換えれば、それで、関係を終わらせたくない相手ってことやん。好きだけど、好きじゃない。もしくは、覚悟がない。………言い方はともかく、自分じゃ幸せに出来んってことを分かってるんやろ。」
彼女は、為咲の言葉に、本当に驚いた。
都合のいい幻想や妄想かもしれない。それでも、少しだけ思考がクリアになる。
(………そういう考え方もあるのか、)
かなりポジティブな思考回路だとは思う。けれど、少なくとも、相手から嫌な感じはしなかった。
「可愛くないとかじゃなくて、?」
おずおずと聞き返せば、怪訝な顔をされた。
「自分のことを好いてくれる女を、それも自分の為に努力してくれる女を、キモいとか思ってる男は、ゴミやけんな。そんな男は、最初から無しやわ。」
あり得ないという表情をした為咲に、今度は、花織が聞いた。
「ふぅん?じゃぁ、少なからず、思ってるってこと?」
「じゃなきゃ、顔が無理。って振ったらいいやん。大抵のヤツは諦めるやろ。こいつが、それでも食い下がるように見えるか?」
「全く見えない。」
花織は、即答した。為咲も頷いている。
確かに、食い下がる気はないが、その反応も反応で傷つく。
「男ってめんどくさー。」
「難儀な生き物なん。女だって、面倒いやろ。」
付き合いが長いのだろう。言い合いをするのに、お互い信頼しているのが窺えた。
「えっと、二人は、?」
どういう関係か気になった。恋人のような、それでいて、友人のような、不思議な関係に見えた。
二人は、顔を見合わせた後、薬指に付いている指輪を見せてくれたので、すぐに理解した。
「わぁ、いいね。」
彼女が言えば、花織は、綺麗な笑みを見せてくれた。
「貴女も意中の彼と、そうなればいいじゃん?」
「………でも、」
「不安がってる割に、スッキリした顔してるやん。」
目を瞬かせた後、思わず、自分の顔を触った。二人には、笑われる。
勇気をもらった気がした。だから、彼女は、小さく笑った。その表情は、思わず、二人が止まるほど綺麗で。
「ありがとう。」
これ以上、彼を待たせるわけにはいかない。何も言わずに、彼の元から去ってしまった。優しい彼は、先程から何度も電話かけてきていて。
「行くん?」
席から立ち上がって、頷く。
怖いだけだった。別に、相手の返事を期待してたわけでもない。何より、返事が返ってこないことも分かっていた。
それでも、少しだけ期待していた自分がいて。
もう一度、頬を叩く。
「気が済むまで、好きって言ってやる。」
そう言って笑った彼女は、二人に頭を下げるとカフェを出て行って、慌ててた彼と合流する。
けれど、その表情は、楽しそうで。

「好きだ。」

その一言で、彼を射抜くように。

一直線

また久しぶりの投稿です。
好きになったら、一直線、ドストレートって、かっこいいですね。僕にそんなところはあるでしょうか?

一直線

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更新日
登録日
2021-10-06

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