ミューシャと空のキャンバス 〜魔法の筆と不思議の世界〜

おおうみ

10/5更新 惑星リーエルドの大陸、アルシュナ。その遥か西方に、一つの王国と、小さな田舎町がありました。王国の名はエルド、町の名はコロンド。その町は、酪農とチーズ作りが盛んな、ほんの小さな町です。そこに一人の少女が住んでいました。少女は日々変わることのない平和な毎日が、いや、とか、なくなってほしい、とか、というわけではなかったのですが、毎日をつまらなそうに退屈に過ごしていました。そんな少女——ミューシャに、とある日、不思議なことが起こります。それは、一本の、奇妙な筆を拾ったことがきっかけで……?

1: 始まりの風

 

1-1: プロローグ

ミューシャ 1-1 完 10/5更新

 ——惑星リーエルドの大陸、アルシュナ。
 その遥か西方に、一つの王国と、小さな田舎町がありました。
 王国の名はエルド、町の名はコロンド。その町は、酪農とチーズ作りが盛んな、ほんの小さな町です。
 王国の主である王エルデルド・アーキバルドの王政は安定し、戦という戦はほとんどなく、そこらじゅうにいる魔物たちを除けば、不穏な因子というものはなく、その平和を、辺境の田舎町コロンドも、大いに享受していました。そのため、町に戦士や兵士の数は少なく、戦いも、魔物を除けばごくまれでした。腕が鈍っていたくらいかもしれません。
 さて、そんな町コロンドに、一人の少女が住んでいました。少女は日々変わることのない平和な毎日が、いや、とか、なくなってほしい、とか、そんなことを思っていた、というわけではなかったのですが、毎日をつまらなそうに退屈に過ごしていました。それは、他の子供たちにとっても、例外ではありませんでした。コロンドは、辺境で、小さな小さな田舎町ではありましたが、娯楽はほどほどにはありました。しかし、子供たちにとっては、それだけでは全く物足りないものでありました。
 ——今日も、毎日は、平和に、ですが退屈にも、始まっていきます。少女は、毎日何か起きないかと願っていましたが、無駄なことだったかもしれません。
 そして今日も、コロンドには、他の国と同じように、朝が訪れます。
 ……はてさて、今日も、少女は早起きして、無事学校に行くことができるでしょうか?

1-2: 起床っ!

ミューシャ 1-2 完

ジリジリジリジリジリジリ!!!!!!!!
 けたたましい騒音を立てながら、魔導鉄合式目覚まし時計が鳴った。ベッドから手を伸ばし、目を強くつぶりながら、手探りで、音を止めるスイッチを探す。パン……パン……パン……と三回目でようやく手がスイッチを押して、けたたましい音は止んだ。
 そして、わたしは、もう一度眠る。起きろ、だって? そんな傲慢な神のお叱りは、馬耳東風だ。わたしはそのまま寝続けた。むにゃむにゃ……。
「……ミューシャ! 何時だと思ってるの! 早く起きなさい、遅刻するわよ!!」
 と、今度は、自分の部屋の入り口のほうで、魔導鉄合式目覚まし時計に負けず劣らずな、けたたましい叫声が爆発した。
 声とほぼ同時に、ノックもせずに、バンと部屋のドアが開けられる。
「……うぅ〜ん……まだ、寝てたいよ〜……もう少し、余裕、あるでしょ?」
「何言ってるの! もう七時四十七分よ! 何時に時計設定したのよ! もう!」
「えっ! ほんとに?! うそでしょ!?」
 少女は、雷に打たれたように、ようやく起床した。



「お母さん、今、何時っ?」
「七時五十五分よ……もう走っても、馬車を使っても無理ね。また先生に叱られるのね……。私も、学校の会合で会った時に、みんなの前で注意されるのよ……恥ずかしくてたまったもんじゃないわ。もうほんと、わかってほしいものね」
 お母さんは頭を右手で抱えて、はぁ〜……と大きくため息をつく。
「それはごめん……だけど、今はそれどころじゃないっ! バッグ! お母さん、バッグどこ?!」
「リビングにあるでしょ、昨日放り投げてたじゃない」
「ありがとっ!」
 わたしは急いでリビングに向かう。ソファーの横に投げられていた茶色い手提げバッグを手に取る。
「待って、ミューシャ、行く前に。……忘れ物は、ないわよね? 前は忘れ物でも注意されてたじゃない」
「大丈夫……だと思うよ! ……多分。全教科カバンに入れてるつもりだから!」
「つもりがあぶないのよ、一応確認しときなさい。緑色の本が、二階の部屋にあったわよ? あれ、前も忘れた地理の教科書じゃないの?」
 お母さんにそう言われて、カバンの中身を確認する。今日は体育と……国語と……数学……簿記……地理…………地理が、ないっ!」
 わたしはもはや何も言わずに二階に上がっていく。
「はぁ……全く、困ったちゃんだわ……」
 そして、はぁはぁと肩を揺らしながら、わたしは玄関にいた。
「朝ごはん食べなくていいの〜? チーズトーストあるわよ」
「……ちょうだい! 食べながら行く!」
 お母さんが急ぎ足でやってくる。手には、白い皿の上に乗った、こんがりと焼けたチーズトーストがあった。このチーズは、この町特産の『コロンドチーズ』だ。他のものよりも濃厚で、コクがある。……って、他のもの、食べたことないけど……。
「ほれひゃ、ひってひまーふっ!(それじゃ、いってきまーす!)」
 トーストを咥えたまま、わたしは玄関を飛び出した。
「いってらっしゃい! 馬車に気をつけていくのよ〜!」

1-3: レイナ・アイアランド

ミューシャ 1-3 完

 家を出発したわたしは、自分の住んでいる商業区を抜けて、学校近くの住宅区にいた。
「まずい……八時、余裕で過ぎてるじゃん……またバーナデット先生に叱られるよ〜……」
 わたしは白髪頭の女の先生のことを思い浮かべる。バーナデット先生は、今日、さらに遅刻を加速させる原因にもなった地理の先生で、ミューシャの担任でもある。
「まず……出来る限り早く着かないと……」
 わたしは、住宅区を、走りに走った。
 その時、いつもお世話になっている魚屋さんの近くに、目に慣れ親しんだ格好の女性がいた。(ちなみに言うと、ここは住宅区だが、一つも店舗がないというわけではない。商機を見込んで、住宅区に店舗を出す店も、多くはないが、かなり少ないわけでもない。実際、この魚屋さんも、新鮮で美味しいことが評判で、私たちもお世話のなっている店だった。)
 それで、その目に慣れ親しんだ格好の女性に気づかれないように、わたしは後ろから近づいた。そして、肩を指でちょんちょん、と軽く触った。
 その女性は、うん? と一間置いてから、ゆっくりと後ろに振り向いた。
「レ、イナっ! こんな時間に、こんなとこで、なにしてんの?」
 振り向いた際に、さらっ、と彼女のさらさらの黒髪が揺れた。ロングのストレートの、真っ黒い長髪。特徴的な、反射した水のような青い瞳。そんな彼女は、直剣術に長けていて、一介の剣士でもある。
「……あら、ミューシャじゃない。何、今日も遅刻? 全く、相変わらずだわ」
「えへへぇ。でもいつも遅刻なしの優等生のレイナが、なんでこんな時間にこんなとこにいるの?」
 レイナは少し考えたようなそぶりをして。
「う〜ん、バーナデット先生に、ちょっと頼みごとをされてね。それでちょっと遅れてるのよ」
「へぇ〜、頼みごとねぇ〜」
 それ以上は、別に気にもならなかったし、追及しなかった。
「どうせ遅れるなら、いつも見ていない店とかも見ていこうかと思ってね……あんたは急ぐべきだろうけど」
 レイナは目を細くしてじーっと見てくる。
「えへへ、でもいいじゃん。二人で登校することなんて、最近あんまりなかったでしょ? 二人でゆっくり行こうよ、ね?」
「……でもそれって、あたしもミューシャの罪のとばっちりを受けるってわけでしょ? そんなのやだわ……」
 レイナは、さらに目を細くしてわたしを見つめてくる。
「いいじゃん、いいじゃん! わたしたちの仲でしょ? いいでしょ、お願いっ!」
 そう言って、わたしはレイナに両手を合わせると、レイナはふっ、と小さく笑った。
「今までのは冗談よ。どうせ遅れるし、二人同時に行けば、先生の気も紛れるんじゃない?」
「いいの?! ありがとー、レイナ!」
「何も、感謝されるようなことはしてないわ。さ、決まったら、さっさと行きましょ? バーナデット先生がカンカンになって待ってるわよ?」
「ううぅ……怖い……」
 レイナは、今度はあはは、と笑った。
「何よ〜……怖いもんは、怖いんだもん……」
「あはは……いや、ね、ミューシャって純情だなと思ってね」
「なによ、まだ子供っぽいって意味? わたしももう十七ですよ、っと」
「いや、そういう意味で言ったわけでもないけど、まぁ、気にしなくていいわ、もう」
「う〜……」
 わたしたちは二人連れ添って歩いていく。
「そういえばさ、学校終わったらあそこいく約束してたよね? ほら、あそこだよ」
「……え?」
 レイナはきょとんとした顔をしている。……彼女にしては珍しい。
「ほら、あそこだって! 『スラじぃ』!」
 そう言うと、彼女は思い出したように顔を上げた。
「あぁ、『スラじぃ』ね。わかってるわよ。……でもねぇ、あんたね、そういうことばっかり覚えてて、きちんとしてるんだから……学校の遅刻グセも、早くなおしたらどうなの?」
「でも、楽しいものは、楽しいんだもん! こんな何もない日常よりも」
「はぁ……でも日常がある、ということも大切なのよ? こんな平和な日常が、ない国だってあるんだから」
「でも、だからって、毎日同じ繰り返しの日々は、いやなんだもん!」
「はぁ……これだから、ミューシャは……」
 レイナは頭を抱える。
「人間は、今まで、何度も幾度も、同じことを繰り返してきて、繁栄してきたのよ? いわば、同じことを繰り返すのは、人間にとって宿命だわ。歴史は繰り返す、じゃないけどね」
 彼女は、今度は歩きながら腕を組んだ。
「確かに、毎日同じ日常が、辛い時もあるわ。でもね、私たちも、今後のために、先人たちを見習って、同じこと——でも、それは戦とかではない、良いことに限ってね——を繰り返していくべきなのよ。たとえ、辛く、いやなことであろうともね。それが世界の真理であり、根幹であると、私は思ってるわ」
「へぇ……レイナは、そう思ってるんだ」
 わたしは……この世界がどうなのか、とか、真理がどうとか、考えたことも考えるそぶりも見せたことはなかった。考えるだけ、無駄だと思っていた。
 それで、レイナは少し恥ずかしそうな表情をして、コホン、と一つ咳払いをした。
「……はい、こんな哲学的な、人に言えなさそうな妄想の話はおしまい。それで、『スラじぃ』のところには、『彼』も来るのよね?」
「もっちろん! わたしたちの冒険は、三人一組で正解だからね!」
「あはは、ミューシャらしい」
 わたしたちは互いに笑いあった。
 ……そうこうしているうちに、学校が、ちょっと遠くに見えてきた。歩くにしても少し遠いくらいの距離だ。
「よ〜し、じゃあレイナ、あそこまで競争だ〜! 負けたほうが今日の学食奢る!」
 言うなり、わたしは駆け出していた。学食奢りは嘘ではなく、ガチンコ勝負のつもりで。
「……あっ、ちょっと、待ってよ、ミューシャ!」
 二人は共に揃って学校に駆け走っていった。

 ……ちなみにその後、わたしは、バーナデット先生にこっぴどく叱られ、本来やるはずでなかった掃除当番をやらされたという……そんなオチでした。なお、学食は、ミューシャが奢ったという……。ハンデあったのに……。

1-4: オズワルド・ローゼン

ミューシャ 1-4

 眠たい昼下がりも過ぎ、夕暮れ前の、昼と夕方の中間くらいの時間になったころ。課業も終わり、生徒たちには幸せの放課後が訪れた。ここで魔術部とか、剣術部とかの部活動の人たちは残るんだけど、わたしたち『三人』は全員帰宅部だったので、それもなかった。
 その代わり、放課になったら毎日やることがある。それが朝言っていた『スラじぃ』のことだった。
 わたしは本来やるはずじゃなかった掃除当番を終え、

ミューシャと空のキャンバス 〜魔法の筆と不思議の世界〜

ミューシャと空のキャンバス 〜魔法の筆と不思議の世界〜

10/5更新 惑星リーエルドの大陸、アルシュナ。その遥か西方に、一つの王国と、小さな田舎町がありました。王国の名はエルド、町の名はコロンド。その町は、酪農とチーズ作りが盛んな、ほんの小さな町です。そこに一人の少女が住んでいました。少女は日々変わることのない平和な毎日が、いや、とか、なくなってほしい、とか、というわけではなかったのですが、毎日をつまらなそうに退屈に過ごしていました。そんな少女——ミューシャに、とある日、不思議なことが起こります。それは、一本の、奇妙な筆を拾ったことがきっかけで……?

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 冒険
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-10-05

Copyrighted
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  1. 1: 始まりの風
  2. 1-1: プロローグ
  3. 1-2: 起床っ!
  4. 1-3: レイナ・アイアランド
  5. 1-4: オズワルド・ローゼン