夜に無く

あおい はる

 甘やかな吐息が、夜にとけるころ、あしたなんてこなくていいと、悲観的な女の子たちがからだをよせあう、森で、片脚をなくした鹿が、ぼくの体温をもとめている。
 街はオートメーション化し、にんげんはなにもしなくてよくなり、ただ、だれかを、なにかを愛し、愛され、愛は漠然と積み重なり、やがて重荷となり、たえきれずに、すべてつぶれて、絶望する。なにもしなくなったにんげんは、この街では、にんぎょうでしかない。森にかくれている、女の子たちは、からっぽのにんぎょうになることをおそれているのだ。種類はおなじでも、科目が異なるだけで、愛してはいけないという決まりはなく、からだのつくりはちがうけれども、ちゃんと、生殖するための機能はそなわっている、ぼくと鹿が、どういうかんけいになろうと、それは、ゆるされてもいいのではないか。そなわっているだけで、なにも産みだせないことは、わかっていて、でも、たとえ将来に、なにも残せなかったとしても、ぼくと、鹿が、種を越えた交わりを、愛をもって行うことで、あらゆる愛のかたち・性愛を、みとめてくれるようになるかもしれない。という、森のなかだけでふくらむ、ひそやかな願望は、ぼくたちが朽ちれば、むなしくしぼんでゆくだけなのだろう。
 身をよせあい、ふるえるばかりの女の子たちをあわれむのは、牙の丸くなったおおかみだ。
 ぼくと鹿が眠るあいだに、夜空の星はさんざめき、みんなが、朝がくることをおそれている。

夜に無く

夜に無く

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-10-04

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