ボロアパートの隙間風

この作品を執筆するにあたって僕自身が体験したことに基づいている。
18歳のときに夢を追いかけ上京し何も分からない中で生活していたころを思い出した。

何もない部屋に帰ってきた。相変わらずだが暖房のない部屋は厳しい…築60年…隙間風…
だから僕は着替えずに毛布に包まり身を温めるしかないのだ。

まさに僕にとっての毛布は水谷豊で言う相棒だ!

台所に行くときも毛布を連れて行くのは必然、格好はまさしく十二単状態である。

いつも夜は決まって具なしのインタスタントラーメンだが、この日は給料日前日ということもあり近くの肉屋で買ったチャーシューを贅沢に乗せチャーシュー麺にするのが決まりになっている。
これがたまらない唯一の贅沢だ!
そしてとどめにキンキンに冷えたビール!これがたまらない。
トロトロのチャーシューを頬張りすかさずビールで流し込む
「ぷはー」思わず声が出てしまう至福の時だ。
トントン‼ドアを叩く音
至福の時から急スピードで現実に戻された
真顔になっていく自分を分かりながら仕方なく返事をし
「はーい」ドアを開けると大家さんが立っていた。
「松本さん、こんばんは…」いつもの低姿勢攻撃のはじまりだ僕はすかさず
「どうしました?」と聞くと
大家さんが
「実は…ここのアパートを取り壊すことになったんよ。だから来月には出て行ってくれんかね?」

思わず大家さんを二度見、三度見、いや四度見…そんな細かい動作よりも衝撃的な内容におどろき言葉を返した。
「なんで急にそんなことになったんですか?」
すると大家さんは口を開いた
「私も見ての通りもう歳でしょ?去年おじいさんが亡くなって1人ぼっち。身内もいないままここで過ごして行くのが寂しくてね…」

確かに去年おじいさんが亡くなってから大家さんに元気がないと気付いてはいたが、まさかそこまでとは…独身の僕にはまだ理解は出来ないがきっといろいろ考えて出した結果だろう…

ってそんな簡単に納得するわけも
なく反抗!

「大家さん!急すぎますよ。僕にも生活というものがあるんです。一ヶ月じゃろくに部屋も探せないですよ!」

大家さんは俯き加減で話した

「あなたその前に家賃二ヶ月滞納してるじゃないの」

僕はその言葉に何も言えず
大家さんの通告を仕方なく受け入れた。力なくドアを閉め振り返りトボトボと歩きテーブルに座ると
目の前に広がっていたはずの贅沢な食事はいつの間にか伸びきったラーメンに心なしかぬるいビール…
これが浦島太郎のラストシーンとリンクしているように思えてしまう。
急に寂しくなった僕は泣きながら伸びきったラーメンを口の中いっぱいに詰め込んだ。
もう何の味かもわからなくなっている。
いつかはこんな日がくるって分かってた。
目の前の優越感しか見ずに都合の悪いことは見ないフリをしていた。
どうしようもない自分を戒めた。
ビールで伸びきったラーメンと涙を流し込んだ…
でも毛布は温かい
ある冬の日の出来事であった…

人はその場その場で生きている。
今を重ね生きていること
そのことを知らずに生きている。

ボロアパートの隙間風

作品の中で過去の自分と向き合えたことでまた成長できたのではないかと思います。
どうしようもなかった自分がある小さな出来事でこれから先の未来や考え方そして生き方がかわるという
ことがあるんだと改めて作品の中で知ることができました。

ボロアパートの隙間風

その日暮らしの男は隙間風が入り込むボロアパートに住んでいる。給料日前に起きた出来事とは…

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-12-06

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