十月に捧ぐ

 レムと、十月のはじまりの、空気感の、調和。だれか、しらないひととつながり、シンクロして、うしなわれたのは、おそらく、あい、と呼ばれるものの、断片だった。ふつうにパスタをたべて、お酒をすこしのんで、ティラミスなんかを注文して、それで、おなかが満たされたから、さも当然の流れみたいに、笑っちゃうくらいゴテゴテのラブホテルにはいった。レムのからだは、まるで、氷のようにつめたくて、たとえば、それを、生きていないみたいにつめたいと表現するのは、なんだか、いやだと思った。ふたりで、シャワーを浴びて、三十九度のお風呂につかると、レムは、あたたかいねと微笑んで、ぼくは、レムのうでに、おそるおそる触れたら、レムのはだは、やっぱり、つめたいままだったので、あたたかいのは、きっと、からだのなかだけなのだろうと考えながら、そうだねと答えた。明日になれば、世界は、一ミリずつくらいの変化を起こしていて、それは、どちらかといえば、よくない方に向かっているのだと、レムは云う。崩壊だの、破滅だのと、ことばでいうのはかんたんだけれど、実際に、世界がそうなるということは、つまり、ぼくらもほろびるしかないということなのだから、重大な問題だと、そう訥々と説きながら、ぼくの鎖骨を、やさしく噛んだ。(引力)その重大さを、ぼくはどこか、フィクションの、映画の、漫画の、小説のことのように捉えているし、でも、レムはいつか、近い将来にかならず訪れる現実のこととして、まじめに憂いている。はだかで抱きあっているのに、ひやひやするのは、レムのせいだ。悪趣味にも思えるピンクの照明に、視界が染まる。

十月に捧ぐ

十月に捧ぐ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-10-01

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted