お稲荷様の恩返し。

白い一面の雪道に一つだけあるお稲荷様。そこにはよくキツネがとおるらしいのさ。

「お稲荷様の恩返し」

 冬の午後、白い雪の中を優香は、あるいていました。ふと、足元にお稲荷の像が見えて、それに何故か寂しげにお祈りしました。
「ねえ、君。なにも願わなくていいのかい、ねえねえ?」
「え?」
「ここだよ、ここ。ぼくが目の前にいるのに、なんでかなあ」
すると目の前に耳をピョコンと出した狐がいました。
「ええ!狐?っまさ、かね あはは!」
 狐は、可愛く小首を傾げます。
「きゃああ!可愛いーー!」
まだ、幼い感じの子狐でした。あたりは雪の中白い平野が続く、草の平原に小さなお稲荷さまと子狐一匹そして優香一人。
「ねえってば、もう話しかけてるのーー!」
頭の中に聞こえるのです、その狐の声らしき声が、ほら。
「ぼくはお稲荷さんの化身なんだよ。もうとても位が高いんだからー、だから念話ではなしてるのにーーーもう!まったく人間ときたら!プンプン!」
「え、ええー!も、もしかして子狐ちゃん?」
 子狐はこくんとうなずく。相変わらず愛くるしい様子でございます。
「うん、はあやっと気付いたー。疲れるなあもう、あ、でも久しぶりの話し相手だし、ぶつぶつ」
「じゃ、じゃあ駅の購買で買ったんだけど。おいなり食べる?」
「わああーすごい。おいしすぎるー!ってぼくはもっと崇高なんだぞ、モノで釣るなー!」
「すごいすごい、私、やっぱり神様とお話してるのね。高校の友達に話して聞かせたいな」
少女はなんだかやっぱり寂しげです。でも何も言わないので、子狐は少しまた小首をかしげる。
「きゃああ!!可愛い」
「ふ、ぼくのルックスには女の子もたじたじさ」
「うんうん、これなら食べちゃいたくなっても許せるよねー」
「あ、アホーぼくを食べ物にするなー。でもカッコイイよね?かっこいい方だよね、ちょっと首の後ろのたてがみ見たいのとか、ね、ね?」
「え、可愛いいんだよ、かっこよさとか全然ありませんー、そのころころビーズみたいな目でいわれても説得力皆無」
「う、ううひどいや、一応雄なのに」
「あ、ああ、泣かないでね。泣かれたらその可愛さで反則すぎるし」
「で、どう?なにか願い叶った?」
「ね、なんでそんなに私の願いとか気になるの?あ、もしかして」
「い、いや願った内容まではわからないとかそんな姑息なことは、わわわ!なに言ってるんだ、ぼく」
「へー、そっか願った内容まではわかんないんだ。よし、よかった、じゃそれじゃねー」
女の子はそのまま立ち去ろうとする。
「行かないでよーうーぼくは祈られてないと消えちゃうんだぞー」
「へっ?どうしてずっとその格好だったんじゃないの?」
「ちがう、君が祈ったから、祈りが強すぎて具現化したんだ。こんなこと普通じゃありえない。とにかく絶対大事な祈りなんでしょ、それ」
「へへ、神様には適わないな。でも祈りって普通人に見せるものじゃないでしょ?自分の心に大事にするものだよー」
「神様ってね、今すごく粗末に扱われてるの」
「え?」
「あっちの森の脇にあったおじそうさまは、最近開発とかいうのが始まって取り壊されちゃった。いつも顔なじみの友達だったのに。おじそうさまをしょべるかーっていうのでぐしゃぐしゃにしたんだぞ!せめてどっかに移してくれれば良いのに」
「そう、それは悲しいね。なんだか私みたい」
「え?」
「わたしのお友達がね、今夜死ぬの。病気でね?もう持たないってあと半年っていったのにお医者さんくすりの処方間違えて、ぐすん、そしたら嘉世子、ぐすん、ぐったりして。ええああああ!」
「そんな、そんなのって、命を助けるのがお医者じゃないか!」
「お医者さんだってがんばったんだよ!必死に夜も寝ないで治療法考えて、でもでも。嘉世子はーー!ふ、不治の病なの。体が端からぼろぼろと崩れていくんだ。見てられない、もう、だめなの!だから!神様だったらねえ、なんとかしろっての!そのくらいしてよって!必死で祈ったんだよ。知らなかった?毎日どこの神社もお寺も全部廻って必死に五円玉集めてでも、君はよかったね!そうやって自由になれたんだから!だけど嘉世子はわだじのたったひとりの!」
優香は手にいっぱい、五円玉を持ってた、コンビニの人にジト目で見られてもくじけなかった。そばでお母さんが泣きはらしててもくじけなかった。ともだちが一人一人お別れの言葉をいったのに、優香は、逆に死んだら許さないって怒っちゃってた。そしたら嘉世子も私ももう許せない!最後の最後でなんで裏切るのよって、人間なんてすぐ、自分の都合のいいように周りを自分をころころ変えちゃうのよ、そういうもんよ、だから嘉世子のことなんてもう知らない。
「わたしの始めての友達なの、私、小さいころから人がすっごく苦手で、でもね嘉世子はわたしにいつもいつもそばにいてくれて、元気づけて。自分はぼろぼろなのに!私は同じクラスになってホントは一人が怖くて嘉世子に味方してただけなのに、あんなにうれしがって。そうよ私は悪い子なの、神様にも許してもらえない、醜い子なのよ」
「ユーカ、ユーカっていうんだね、心の声、聞こえたよ。やっと全部話してくれたね。ユーカ。いつも見てたんだよ。仏様もそれから九十九神様も必死で優香を慰めようとしてたんだ、でもだって神様だって最近祈ってくれる人が信じてくれる人がいなくて薄れているの。この国がなんだかおかしいでしょ?いま、みんな神様なんか信じなくなってる。参拝しても義理でぎこちなくするだけ、あんなにひたむきな祈り懐かしかった。昔はお百度参りっていってお母さん、おばあちゃん、そりゃあもう必死に祈ってくれるんだ。孫の命を子供の命をってね?そんなに暖かかった人の心最近荒れてる。なんかみんなつんけんしてる。でも、ぼくたち、祠の中から必死に見守ってその町を支えてきたんだ。でも今度こそは、ぼくは決めたんだ無力な神様はもうやめだ。きみは助ける!ユーカ。嘉世子のところに案内して」
走り出した。必死に必死に必死に。友達のためにただひたすらそのために、胸に小さな子狐だいて。道行く人は眉をひそめて、「おい、狐なんてどうしたんだ!病原菌がいっぱいいるんだぞ、気をつけろ」そんなふうにけだものあつかいしてけだものだけど。だけど昔は違った。「なにあれ、狐?やっだ、狐って汚いんだって可愛いけどね」そんなふうに自然をまるで病原菌のようにはみなかった。でも今公園の芝生にはなぜだかねっころがれない、まるでそんなことするのは子供みたいな。みんな大人になりすぎてて、ちょっと、さかしい。
優香はとおりを抜けてそのまま病院へ、嘉世子の部屋、バン!と乱暴開ける。
ピー!ピー!ピー!ピー!ピー!ピー!ピー!ピー!ピー!ピー!ピー!ピー!ピー!
規則正しく生命維持装置が金属音を出す。つめたいコンピューターに監視されて佳代子はもう半身がもうぼろぼろに。
そうもう二度と目を開くことなくそそしてもう二度と優香も嘉世子も取り返しの付かない同じ場所なのに、そこには世界が二つあった。
嘉世子の、冷たい世界、と優香の一人ぼっちの世界。世界なんてそんなもの、人一人の世界観なんてちっぽけで狭い。
でも絶対に叶えたい願いがあった。儚くて淡い願いが。
「大丈夫、嘉世子を霊界からひっぱり起こす、古来狐は、厄除けに使われてきた、その力はあの世の使者を見出し食い殺す、本当は猫だってそれが出来るのだけれど、今のはやわいからな、ペットショップで育って自然を知らないと動物だってその目的を忘れるのさ。
いくよ、祈りをもっと強く」
 優香は、祈った、切にそれだけを。嘉世子を、たった一人の友達を救ってあげて救って欲しい、絶対に救ってみせる!
嘉世子の周りに、金の毛皮の大きな妖弧が取り巻いた。
「我が名はお稲荷。娘、世話になった。これで、私は天界へ行ける。おまえのおかげで私は、もうそれが許されてしまった。本当はあと五百年は世にい続けなければならぬところをな、さあ汝の願いを言葉に出せ!」
優香は今度ははぐらかしたりしない、もう逃げない絶対!
「嘉世子を元気にして今まで悲しみ全部やっつけるくらい元気に!」
「はっはっはっは!こころえたぁああ!」
天界へ狐が廻るように上っていく、嘉世子の悲しみも苦しみも全て浄化してやっつけてしまうくらい。
「ん、んん?ここどこ」
「娘、礼を言うがいい。ユーカの祈りは天に通じたぞ、おまえはこれより寿命を最後まで元気に全うするのだ、大丈夫、元気になればどんな悩みも全部ふっとぶからな、ふっはっはっはっはっはっはは!」
そして妙にテンションの高い狐はもう大人になっていた。嘉世子は、天界のきらめきのなかにいる。
歩ける!!走れる!!!跳べる!!!ああ!なんてうれしいんだろう!!ありがとう、狐さん。
「ふん、わしだってわしのためじゃわい。神様は、祈られてないと忘れられるのが怖いのさ、のう優香醜いか?それがなんのもんじゃ、これはきせきぞ?美しゅうだろ!」

 それからだった、修学旅行の日。
嘉世子と優香、二人はばっちしおしゃれを決め込んで、でっかいドキドキ抱え込み。さあ、青春青春、愉快愉快。
「ねえ、優香、新入生の子、知ってる?超かっこいいんだ。名前も私らには吉だよー。神代いなりっていうんだって」
「え、ええええ!」
バスの中で紹介を受ける男の子。後ろの髪がピーんとたてがみみたいに跳ね上がってる「始めまして!神代いなりです。おお、よっ、おふたりさん元気?へへ人間に転生してきてやったぜー!俺ってやるだろーなーユーカ!にカヨコ!」
「なにーあの子、変―くすくす」
「あ、ああ!」
「ちょっと優香、あの男の子はわたしのものだからね」
「なにー嘉世子、いっとくけどそれは譲れないわ、なにしろ運命が二人をむすんでるんでね」
「ん、ユーカはきれいだがカヨコはいい匂いがするぞ、どっちも好きだ!」
「くう、嘉世子!」
「へん、優香には負けないもん」
「わ、わたしだって」
「こらーお二人お熱いのは夏の暑さにだけしてせき座るー出発すんぞー」と先生。
そう、みんな嘉世子が病気だったなんてもうなぜだか忘れてるのでした。
嘉世子も優香もびっくり仰天、あの狐!
「しゃばけ!あははは」
ふたりと一匹の写真はとびっきりの笑顔でした。


          おわり!

お稲荷様の恩返し。

神様が人を助けたってなにが悪い、ていうか神様ってそういうものだろ?というかそう思いたいじゃないか。

お稲荷様の恩返し。

お稲荷様に祈ると不思議なことが。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-12-06

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