オンライン幻視行
雨音して久方ぶりにドアを開く空中の粒を泳ぐ光は
学校へ定期的には通わない切符を買って通る改札
バンクシーの中づり広告と白い光が音のない夜を駆ける
改札前三か月ぶり見た友の顔思ったよりもどこか優しい
友と歩くその歩調がただ愛しくて顔を眺めてただ笑いあう
マンションの階段上り二階にてさらに奥へと歩む薄闇
「猫ですか」呆れたように言う店主「ええ、ウエストが少し緩いので」
古い木の棚から下りてきた猫はベルトではなくただの液体
「液体だ」そう言いはって猫を呑む私の顔を見て笑う君
ガラス製の小惑星を覗いては失くした記憶を深くただよう
この世界はたったひとりのオンライン「私」だけがただ増殖する
私たちはアンドロイドに似ているか授業面壁する朝と夜
親友との十三行のやりとりで人はこんなに涙するのか
下を向く私が上を向く異域暗いキッチンのスプーン三本
目の前のべやべや道を全裸にて時計を持ったうさぎが走る
帰り道「さっきはどうして寝てたのか」友は笑って私に訊いた
手を振って互いに言った「またあした」また会える日はいつ来るだろう
電車乗り窓の外には夕暮れがあるはず地下でそう思う冬
マフラーを整えながら出る地上明日も少しは踏み出せばいい
三日月を垂らす夕空釣り人は今宵私を食べたいようだ
オンライン幻視行