ナンデヤ・ネン・フォン=マカイナのかくも痛ましく愉快な一生

瀬戸かもめ

 彼が電柱に頭をぶつけて死ぬことは、生まれたときには決まっていた。
 フォン=マカイナ家の人間は工場で生産され、コウノトリに運ばれてくる。当主が結婚し赤ん坊申込書を送ると――季節風によって遅れることもあるが――約十か月で置き配されるのだ。父親のアカン・ヤンは息子がせっかちな性格であることをすぐに見抜いた。配達後三日にしてナンデヤ・ネンがベビーベッドで量子力学の入門書を読んでいたからである。そして三歳の頃には言語を知らないにも関わらず永久機関を発明した。
 ナンデヤ・ネンは順調に小学校から大学まで進み、その後父親が亡くなったのでフォン=マカイナ家を継いだ。地主と工場主を兼ね、母のソラ・エエナと妹のソラ・ソウカを養いつつ、楽しく暮らしていた。彼は大学で、プラスチック製義眼に埋め込む三十七か国語自動翻訳機を改良する研究をしていた。そのため工場ではプラスチック製義眼と翻訳機を生産した。
 彼の趣味はスパイであった。サイボーグ化処理をされ二十三世紀まで生き延びたマイクロフト・ホームズの末裔、マイクロフト三十五世の優秀な部下であった。しかしスパイという立場上、業績は不明な点が多い。一説には政府の機密文書を盗み出してSF小説を書き、覆面作家としてヒューゴー賞と直木賞を受賞したともいう。
 ナンデヤ・ネンが交際していたのは魔女であった。名前は伝わっていない。しかしナンデヤ・ネンは交際から三か月で彼女を振り、エエナ・フォン=マデッカと結婚した。
 電柱島は月の海にある。地球では二十二世紀までに完全無電柱化されたため、電柱は廃棄されるはずだったが前衛芸術家サカナ・トケンネンが回収し全部立て直した。二人は新婚旅行でそこに来ていたが、魔女の呪いがナンデヤ・ネンの思考回路をクラッキングしてナンデヤ・ネンは電柱に向かって倒れた。赤ん坊申込書は送られているので、これからナンデヤ・ネンの息子ゴッツエ・エネンがフォン=マカイナ家に送られる予定である。
 ナンデヤ・ネンの遺体は工場に回収され、構成する分子は次の当主の子供、ソヤ・ネンの材料になる。
 全ては順調にこの記録に従っている。

ナンデヤ・ネン・フォン=マカイナのかくも痛ましく愉快な一生

ナンデヤ・ネン・フォン=マカイナのかくも痛ましく愉快な一生

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-29

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