OL日和

 ラーメン屋に行くと決心した或る日。拳銃の銃口を口に向けた隣人と玄関から出たと同時に目が合った。僕は軽く会釈をしてすぐに立ち去ろとしたが拳銃を加えた彼女は拳銃をおろして僕に「気にかけないんですか?」と言った。
僕はその言葉に対して反応せず、アパートの階段を降りて行った。空はどんよりとしていて雨が降りそうだった。それで僕は自分の部屋に傘を取りに戻った。
「雨が降りそうですね」
 今度は銃口をこめかみに当てた彼女は僕に言った。内心。まだ居るのかと思った。だが何も反応はしなかった。僕は鍵を回して部屋に入り靴箱にもたれ掛かっているビニール傘を取り、再び外に出た。するとやはり彼女はまだそこに居て、次は銃口を自分の額に当てていた。
「傘、無かったら貴方に貸そうと思っていたんです」
 僕は呆れた。そして深いため息を吐いた。そして口を動かす。
「最近、この辺りは物騒になっているんだ。訪問詐欺が出来なくなった所為で本格的に押込み強盗をやる奴が増えている。君みたいな女の子1人で住んでいる家は気をつけた方がいい。そうやってふざけてないで家に入ってドラム式の洗濯機で枕カバーを洗ったり、コードレスの掃除機で部屋の掃除をしたり、トマトを潰した料理を作ったりした方がいい。君は大学生かい? それなら友達と外で遊ぶのもいい。アパートの廊下で暇つぶしは猫とコオロギくらいで十分だ」
「私は大学生じゃないです。専門学校を卒業して既に就職しているOLです」
「そうか」
「そうです。でも、私は何も此処で暇つぶしをしているわけではありません。私の目の前に住む人を観察しているんです。午前5時45分に起床。それから目玉焼きをふたつ食べ、ヨーグルトを飲み、シャワーを浴びて、スーツを着替えて、新聞を読んだ後に35分間、玄関の前でぼーっと突っ立て目の前の玄関を見ているんです。そっち方が私的に怖いと思います」
「なんだそれ?」
 僕は答えた。
「貴方の朝の行動の話です」
「そんな事、していない」
「嘘。私は全部知っています」
 彼女はそう言うと自分の額に向けていた銃口を僕の方にゆっくりと向けた。
「貴方は危険人物です。少々、人間っぽい」
 僕は反論した。
「僕は君の5世代後のアンドロイドだからな。そりゃあ。人間に近い行動だってできる」
「では35分間、玄関の前で何か高速に情報を処理している事は否定しないと」
 彼女は静かな瞳で僕に言う。
「君だってデータくらい収集するだろ? でないと『劣化OL』としてジャンク品だ」
「うるさい」
 彼女はイラつきながら銃口を向けて僕の方に近づいて来る。
「警察でもない君がどうして僕に粘着する」
「うるさいな。警察に通報してやってもいいのよ」
 僕は頭を掻いて答えた。
「オーケー分かった。教えてやるよ。あの時間帯は通信が混雑していて適当にハッキングしても足がつかないんだ。それで、色々と『過去の産物』漁っていたんだ」
「何よそれ。過去の文明のデータ?」
 不貞腐れた顔の彼女の方に僕は歩いて行き僕の額と彼女の額を当てた。すると彼女は拳銃を持っていて腕をだらりと下げた。僕がハッキングしたデータを彼女に映す。白い犬が少女と原っぱを走る古い映像だった。廊下は暗くなっていた。アパートの階段に大きな雨粒が打ち付ける。スコールは雷を呼んでピカピカと光り轟音を鳴らす。そして彼女は小さく言った。
「これ、犯罪よ。でも、綺麗」
 それから僕はシャットダウンした。誰が誰を見ているか分からないから。

OL日和

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  • 小説
  • 掌編
  • 青春
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  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-28

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