マイ・ドライブ

 彼女は白い肌に白いワンピースを身に着け白い羽根を広げて浮かんでいた。教室は3階。僕は窓際の席に座っていた。彼女は晴れた日に窓から僕と教室を見ていた。休み時間に僕は彼女に対して気づかないふりをしていたが彼女は僕に「数学嫌い」とか「太宰治はキモい」とか「英語は不味い」とか言っていた。僕はシャープペンシルをクルクルと回しながら隣の席に座る女生徒を見る。女生徒は気まづそうな表情で僕を無視する。すると浮かぶ彼女は「クルクル回るシャープなペンシル凄い! 熱湯で茹でると口がみんな開くアサリも凄い」と言うから僕は得意げになってシャープペンシルを高速で回す。そうしたら浮かんだ彼女が窓の外から細くて白い腕を僕の回すシャープペンシルの手をグイッと引っ張った。僕は驚いて「あっ!」と叫んだ。
「ワタシにも! ワタシにも! それやりたい! くるん、くるん、でしょ? ねえん。ねえん。ねえん。ワタシも回したい!」
 僕はそれを無視した。駄々っ子をあえて無視する母親のように無視をした。そうしたらチャイムが鳴った。授業が終わる音だ。長い休み時間に入る。授業が終わった事によって幾らかの生徒たちは席を離れる。
「2くん。ちょっといいかな?」
 隣に座る女生徒が僕に質問した。僕に話しかけてくるとは珍しいなと思った。
「前々から思っていたけど2くんは授業の間、ほとんど、あたしの事をジィーって見ているよね? あたしの事が好きなの?」
「君に顔があるから見てるんだ。顔を見る事によって僕は救われている。別に好きなわけじゃない」
「嘘よ。絶対、あたしの事が好きでしょ? でないと一日中、あたしの事を見てないわよ」
 女生徒はそう言って僕の腕をグイッと引っ張って僕の唇を噛もうとした。女生徒の髪の毛からシンプルな石鹸の匂いがした。だが次の瞬間、浮かぶ彼女が「ああーっダメ!」って軽く叫び女生徒に抱きついた。次の瞬間、女生徒はポン!っと破裂したタイヤのような音を鳴らし、頭や身体を腕、脚を発泡スチロールの塊に変わり床に倒れた。カスれたテーマソングはどうやら他の生徒たちにも伝わったらしく、みんな一斉に僕の方を見た。
 ポン! ポン! ポン!
 僕と発泡スチロールの塊を見た彼らは発泡スチロールと変化して床に散らばる。僕のズボンのポケット入っている携帯が震える。どうやらまた実験は最初からやり直しらしい。失敗したのだ。僕はため息を吐いた。これで53回目だぞ。内心、焦りを感じていた。
「ねえ、ねえ。ワタシ、可愛い?」
 僕の制服のシャツを掴みながら浮かぶ彼女は言った。
「美人が4割、可愛いが6割。これ、僕のタイプ」
「ふうん。あっそ。久しぶりにワタシ、1くんに会いたいなあ〜」
 その後、浮かぶ彼女はオスピンを踏んだらしく「んぎゃあ!」と叫んでいた。羽根があるから浮かんでいる筈だろうに。僕はオスピンを拾って窓の外に投げた。

マイ・ドライブ

マイ・ドライブ

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-27

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