マギウス・アーティファクト #02.ロナンの涙 3/4:追憶の後悔と希望

にがつ

『ロナンの涙』――其れは、動物と植物を心を通わせる。


「今日の成果は過去の努力の結果であり、未来はこれからの努力で決まる」

台本概要

◇台本名◇
 マギウス・アーティファクト-英国魔法幻想譚-

 2nd Episode ロナンの涙-Teardrops Ronan- 3/4:追憶の後悔と希望


□台本情報□
 ジャンル:魔法ファンタジー
 所要時間:〇〇分
 男女比率 男:女:不問=2:3:0(合計:5名)

※本台本には暴力・残酷的表現があります。

登場人物

 アルト・クナギリ
  性別:男性、年齢:18歳
  本作の主人公で、人間と妖精(ようせい)の間に産まれたハーフ。『蒼の妖精眼(ラピス・ラズリ)』の持ち主。
  母親の姓で名乗る場合は「アルトリウム・エムリス(Artorium Emrys)」。
  性格は温厚で優しく人情深く、他人が傷つけられるのを何よりも嫌う。
  魔法使いや妖精(ようせい)たちに伝わる〝予言(よげん)(うた)〟に登場する『運命の()』。

 シオン・ティールグリーン
  性別:女性、年齢:17歳
  本作のもうひとりの主人公でもあり、ヒロインでもある魔法使い。
  女王陛下から政府や警察が対処出来ない魔法使い関連の事件を対処することを
  任された秘密組織『時計塔(とけいとう)騎士団(きしだん)』のリーダーを務めている。
  良家(りょうけ)令嬢(れいじょう)ではあるが、本性は尊大(そんだい)かつサディストで他人の困る様が好き。

 アマリリス・ラビットゲート
  性別:女性、年齢:16歳
  『時計塔(とけいとう)騎士団(きしだん)』に所属している魔法使いで、トレメルのところに居候(いそうろう)している。
  男勝りな性格で口調が非常に荒っぽいヤンキーだが、シトラスに対してのみ従順。
  元々はラビットゲート家は名門家ではあったが、とある理由で取り(つぶ)された。
  自分を受け入れてくれたトレメル家には深い恩義(おんぎ)を感じており、騎士団で得た報酬(ほうしゅう)居候(いそうろう)代として
  半分以上を渡している。(※なお、(もら)った報酬(ほうしゅう)についてはトレメル家は使わずにとっておいてある)

 シトラス・トレメル
  性別:女性、年齢:20歳
  ベイカー・ストリートにある花屋『フラワー・トレメル』の店主の娘。
  ドイツ生まれであるため、一家と共に移住し帰化(きか)した。ドイツ名は「ツィートルス・トレンメル」。
  心優しいおっとりとした美人のため、そのためモテる。
  しかし、彼女はドイツを離れる際に再会を(ちか)った初恋の人を待ち続けている――

 ギルバード・フェルゼンステイン
  性別:男性、年齢:21歳
  ロンドンの貿易(ぼうえき)会社に勤める商社マンであり、シトラスの幼馴染(おさななじみ)であり初恋の人。
  真面目(まじめ)で明るい好青年(こうせいねん)であり、幼い頃は人気者であった。
  自分の母親を殺した事でシトラスの元から突然去り、ジャック・ザ・リッパーとして娼婦(しょうふ)(ねら)った連続殺人鬼となる。
  ドイツ人であり、ドイツ名は「ギルベルト・フェルゼンシュタイン」。

 アンブロシウス・メルリヌス
  性別:女性、年齢:??歳(見た目は20代)
  幼い頃のシトラスの祖母の前に現れた不思議な女性で、『ロナンの涙(ティアドロップス・ロナン)』をあげた。
  その正体は――

上演貼り付けテンプレート

 台本名:マギウス・アーティファクト
     2nd Episode ロナンの涙-Teardrops Ronan- 3/4:追憶の後悔と希望

 【配役】
  アルト・クナギリ(♂)
  シオン・ティールグリーン(♀):
  アマリリス・ラビットゲート(♀):
  シトラス・トレメント(♀):
  ギルバート・フェンゼルスタイン(♂):

  アンブロシウス・メルリヌス(♀):※シオンの兼ね役
  ????(♂):※アルトの兼ね役

  幼女(♀):※シトラスの兼ね役
  神父(♂):※ギルバードの兼ね役
  リス(不問):※アルトの兼ね役
  小鳥(不問):※アマリリスの兼ね役
  シカ(不問):※ギルバードの兼ね役

アバンタイトル

<????/????>

ギルバートN:(なつ)かしい夢を見た。子供の時の記憶だ。
       外では、多くの友人に囲まれた人気者。
       家では、実の母親に拒絶(きょぜつ)される鼻摘(はなつま)(もの)
       だからこそ、自分の居場所(いばしょ)は外にしかなかった。
       それに、外に行くことで最愛の人――シトラスがいる。
       彼女とは常に一緒にいた、気が弱くて放っておけない女の子。
       いや――自分が好きだったから、一緒にいたんだ。
       幸せな時間。特に彼女の笑顔を見た時はより一層感じた。
       やがて彼女と過ごす(うち)に〝ある感情〟が芽生(めば)えた。
       子供ながらでも理解する、「彼女を好きになった」のを。
       彼女は覚えていないだろう、(かな)うはずもない結婚の約束をしたのを。
       ――夜の(とばり)が降りると、幸せな時間に終わりが()げられる。
       家に帰らないといけない、忌々(いまいま)しい〝あの女〟がいる住処(すみか)に。
       貧しい家だった、明日を生きる事を常に考えなければいけなかった。
       母親は売春婦(ばいしゅんふ)だった、もちろん非合法の。
       自ら街に出向き、男を(あさ)り、そして家に連れて帰っては(あえ)ぎ声を挙げる。
       不快だ、不快だ、何よりも不快でしかない。
       母親にも、自分にも。
       そして事が終わると、大抵(たいてい)は自分を痛めつける。
       相手の男がヘタクソで、快感を得ることが出来なかった腹いせに。
       しかし快感を得られた時は、子供想いの良き母親を演じた。
       淫猥(いんわい)放蕩(ほうとう)な〝この女〟が、自分の母親。
       ()えるしかなかった、従順(じゅうじゅん)であるしかなかった。
       〝この女〟無しで自分は生きていけない。
       ――しかし、それは突然終わったのだ。
       〝この女〟がシトラスの事を知ってしまったから。
       耳を疑う言葉を投げかけた。
       ――「あのガキを連れてこい、アイツは高く売れる」
       ――「母親の言う事は聞けるよな?」
       気が付いたら手には料理用の包丁(ほうちょう)(にぎ)られ、泣き(さけ)ぶ母親が目の前にいた。
       涙を流し、必死になって許しを()う。
       ――「ごめんなさい、ごめんなさい」
       ――「許してください、命だけは」
       ――「助けてください、助けてください」

????:その声は全て(うそ)だよ。
     彼女は(うそ)つきなんだから。
     君もよーく知っているだろ?
     (うそ)つきには、(ばつ)を与えないとね。

ギルバートN:誰かの(ささや)いた声が聞こえた。
       俺はその声に(こた)えるために、母親の上にのしかかる。

????:逃がしたらダメだ。
     ()すなら、どこだと思う?
     彼女を象徴するところはどこだい?
     そう――子宮(しきゅう)だ。

ギルバートN:母親の服を脱がす。
       血と精液(せいえき)(にお)いが鼻腔(びくう)(つんざ)いた。
       不快感が殺意へと強くなる。
       母親は泣き(さけ)び続ける。

????:さあ、見つけた。
     その(やいば)を振り下ろせ。

ギルバート:うわああああ……夢、か。
      うっ!オエ!!
      ……ゲホゲホ、最悪な朝だ。
      あはっ、あはははは……ナンダコレ、俺が、罪悪感を抱いているのか……?
      罪悪感? バカげている……
      消さないと、消さないと……生かしちゃいけない、殺さなきゃいけない……
      俺は……俺は……ジャック・ザ・リッパーなんだから……


アマリリス:マギウス・アーティファクト、#02、ロナンの涙(ティアドロップス・ロナン)

ギルバート:3/4、追憶(ついおく)後悔(こうかい)希望(きぼう)

Scene 01

<ロンドン・ベイカーストリート/フラワー・トレンメル>

シトラス:このペンダントは、おばあさまが〝ある人〟に(もら)ったと聞きました。

アルト:ある人?

シトラス:はい。
     小さい頃、寝る前のお話でよく聞かせてくれました。
     森の中で(まよ)った時に、不思議なお姉さんに出会った、と――


(間)


幼女:どうしよう……ここ、どこ?
   ひとりでこなきゃよかった……おかあさんの言う事をきいておけばよかった……
   うわああああああん!

アンブロシウス:おや? これはこれは、かわいいお嬢さん。
        こんな時間に、森にいたらいけないよ。
        迷子(まいご)かな?

幼女:ひっぐ、だあれ……ひっぐ……

アンブロシウス:安心したまえ、怪しい者じゃないさ。
        キミをお家に送り届けてあげる優しいお姉さんさ。

幼女:ほんとに……?
   おねえさんが、おうちにつれていってくれるの?

アンブロシウス:とは言っても、案内するのは私じゃないんだけどね。

幼女:えっ?

アンブロシウス:彼らが送り届けてくれるさ。

幼女:リスさんに、鹿さんに……小鳥さん……?

アンブロシウス:森の案内は彼らが一番頼りになるからね。
        それと……これは私からのプレゼントだ。

幼女:うわあ! きれいなペンダント!!

アンブロシウス:さあ、つけてごらん?
        うん、良く似合っているよ。

幼女:ありがとう、おねえさん!

鹿:お嬢さん、お嬢さん、帰るんだったらコッチの道をずっと歩けばいいよ。

リス:鹿さん、今は真っ暗だから怪我しちゃうよ!

小鳥:アンブロシウス、炎魔法で明かりをつけてあげて!

アンブロシウス:テッド、あんまり私の名前をここで――

幼女:どうして? リスさんたちの声が聞こえるの?

アンブロシウス:ふふっ、その驚いた顔が見たかったのさ。
        そのペンダントのお陰だよ。

幼女:そうなの?
   ペンダントのお陰なの?

アンブロシウス:そう、そのペンダントの名前は『ロナンの涙(ティアドロップス・ロナン)』。
        コレをつけた人は、動物の言葉を理解できるようになるんだ。
        それじゃあ、君たち、お嬢さんを頼んだよ。

鹿:任せて!

リス:さあ、お家に帰ろう!!   
  
幼女:ねえ! おねえさん!!

アンブロシウス:どうしたんだい?

幼女:お名前を教えて!

アンブロシウス:えっと……それはちょっと――

幼女:そうしないとお礼が出来ないもん!
   おかあさんが言ってた!!
   良いことをしてもらったら、お名前をきいて、お礼をしなさいって!

アンブロシウス:困ったな――イテテ!

小鳥:カッコつけてるんじゃねーよ!

アンブロシウス:相変わらず、小さい(くせ)に野蛮だなぁ、キミは……

幼女:じっー!

アンブロシウス:うっ……そんな真っすぐな()で見られると……しょうがない。
        アンブロシウス・メルリヌス、それが私の名前だよ。

幼女:アン、ブロシウス、メルリニュス

アンブロシウス:おっしいな~
        リピート・アフター・ミー。
        メ・ル・リ・ヌ・ス。

幼女:アンブローシス・メルリヌス!

アンブロシウス:うーん、ちょっと惜しいな~
        まっ、いっか。
        早く帰りなよ、お母さんがきっと心配しているから。

幼女:うん、バイバイ! アンブローシスさん!!

アンブロシウス:うん、バイバイ。
        ……やっちゃったなぁ。
        きっと私の存在が、『運命(うんめい)()』に知られるんだろうな。
        やれやれ、千里眼(せんりがん)を持っていたとしてもツメが甘いね、私は。


(間)

シトラス:――これがおばあさまから聴かせてもらった話の内容です。

アルト:魔法道具を持つ、不思議な女性……シオンさん、このペンダントは――あれ? どうしたの?

シオン:シトラス……君のおばあさんが出会った女性は「アンブロシウス・メルリヌス」って名乗ったんだな?

シトラス:はい、そうですけど……リリスちゃんまでどうしたの?
     そんなに驚いた顔をしちゃって――

アマリリス:それは私でもわかるぞ! アンブロシウス・メルリヌスは!!
      反対になんでシトラスたちは驚かねえんだよ!!

アルト・シトラス:んー?

シオン:アンブロシウス・メルリヌス……これはラテン語読みで、 英語読みするとアンブローズ・マーリン。

アルト:それって! 確かアーサー王伝説に登場する、あのマーリン!?

シオン:ブリテン王、ユーサー・ペンドラゴンを(みちび)き、その子であるアーサー・ペンドラゴン
    に仕えた、予言(よげん)魔術師(まじゅつし)・マーリン。
    シトラスの祖母が出会ったマーリンが本物ならば、800年以上は生きていることになる。

アルト:それじゃあ、このペンダントは……

シオン:正真正銘(しょうしんしょうめい)、〝本物〟のマギウス・アーティファクトだ。

Scene 02

アルト:本当に良かったの? シオンさん。

シオン:まあ、しょうがないだろう。
    それにペンダントの効果が、動物たちの言葉を(かい)するのなら害はない。
    シトラスなら、それを使って悪用することもないだろう。

アルト:アマリリスさんと同じでシトラスさんのことを信用しているんだね。

シオン:彼女だけではなく、あそこの家族ほどの善人(ぜんにん)は中々いないよ。
    それに、アマリリスは彼女たちに救われているんだ。

アルト:えっ?

シオン:アマリリスの家は――ラビットゲート家は由緒(ゆいしょ)正しい魔法使いの家系だった。
    かつては私たちの家とも家族ぐるみでの付き合いがあるほどの親しかった間柄(あいだがら)だったのさ。
    禁忌(きんき)に触れるまでは、な。

アルト:禁忌(きんき)……

シオン:――〝自身を吸血鬼(きゅうけつき)とする〟魔法、いや(のろ)いと言ったほうが正確だろう。
    アマリリスはこの事には関与していない。
    むしろ、彼女は被害者だ。

アルト:被害者?
    一体、どういうこと?

シオン:……彼女の両親が、実験体として彼女に試そうとしたんだから。

アルト:なっ!

シオン:今でも覚えているよ、口にするのが嫌な事件だったよ。

アマリリス:おい、シオン。
      勝手に他人の過去を語ろうとしてんじゃねえよ。

シオン:おや、アマリリス。
    ついてきたのかい?

アマリリス:別にそういう(わけ)じゃねえよ。
      ……本部に行くぞ。

アルト:アマリリスさん……

アマリリス:いいから早く来い。
      本人の口から直々(じきじき)に教えてやるよ。

Scene 03

<ロンドン・ウェストミンスター宮殿/『時計塔の騎士団』本部>

アマリリス:今から7年前のことだ。
      両親は家を発展させるために古代魔法(こだいまほう)の研究に没頭(ぼっとう)していた。
      私の家は古代魔法の研究で有名な家だったからな。
      だが、古代魔法(こだいまほう)の研究や解析(かいせき)には膨大(ぼうだい)な時間が必要だった。
      そこで、奴らは気付いた。
      「人間の寿命では今の研究を続けられない」
      「ならば、〝違う生物〟へと()ればいい」
      ――そこで、クソみたいな事を思いついた。

アルト:それで自分たちを〝吸血鬼(きゅうけつき)〟にする方法を?

アマリリス:その通りだ、頭がおかしいだろ?
      〝吸血鬼(きゅうけつき)〟になれば数百年は生きれるが、ひとつ問題があった。
      ――吸血衝動(きゅうけつしょうどう)如何(いか)に抑えるかだ。
      これを達成出来ないと、自分たちのやっていることが外にバレちまう。
      〝人間を吸血鬼(きゅうけつき)にする〟魔法は完成していたが、〝吸血衝動(きゅうけつしょうどう)を抑えた吸血鬼(きゅうけつき)
      にすることは出来なかった。
      やがて外に計画はバレて、魔法省(まほうしょう)から〝アグレッサー〟の奴らが派遣(はけん)された。

アルト:魔法省(まほうしょう)? 〝アグレッサー〟?

シオン:魔法省(まほうしょう)は、魔法・魔法使い関連の公的機関だよ。
    魔法を管理し、秘匿(ひとく)し、その発展を使命とする。
    もちろん、君が住んでいた日本にも同様の組織が存在するよ。
       
アルト:そ、そうなんだ……知らなかった……

シオン:もちろんさ、(おおやけ)には秘密にしているんだから。

アルト:それで、〝アグレッサー〟と言うのは?

シオン:魔法省(まほうしょう)の一部部署である法務執行委員会(ほうむしっこういいんかい)通称(つうしょう)〝アグレッサー〟。
    暗殺などの汚れ仕事を()()っている、暗部(あんぶ)のような組織だよ。

アマリリス:とにかく逃亡(とうぼう)の日々さ。
      そのときは親が何をしているのか、どうして私たちが襲われるのか、私は本当にわからなかった。
      誰かに(はめ)められて、冤罪(えんざい)でこんな目にあっていると本気で思っていた。
      実際、私たちの家に(うら)みを持っていた(やつ)はいるからな。
      でも、実際は違った……最後の逃亡先のルーマニアで事実を知っちまった……

アルト:アマリリスさん?

アマリリス:ああっ……ごめんなさい、ごめんなさい……!

アルト:どうしたんですか?!

アマリリス:次はうまくやります、お願いだから、お願いだから……!
      殺さないで、お父さん! お母さん!!

アルト:アマリリスさん!!

アマリリス:ああっ……私は……私は……

アルト:危ない!
    気を失っている……

シオン:アマリリスを休憩室のソファに寝かせてあげてくれ。
    こっから先の話は僕からしよう。
    ……彼女にとってトラウマだからな。

アルト:わかった……ちょっと待ってて。


(間)


シオン:アマリリスは大丈夫か?

アルト:うん、今はぐっすり眠っている。

シオン:そうか……なら、良かった。

アルト;シオンさんのほうは大丈夫?

シオン:私の方は大丈夫だ。
    久しぶりにあんなに取り乱した彼女の姿を見たから、少しは驚いたが。

アルト:久しぶりに、という事は……

シオン:あぁ、そうだ。
    話の続きをしよう。
    5年前にラビットゲート家がルーマニアのシギショアラにいる情報を〝アグレッサー〟の連中より早くに(つか)んだ。
    当時の『時計塔(とけいとう)騎士団(きしだん)』は父上が団長を務めていて、
    補佐(ほさ)する形で私と兄上と他数人で向かった。
    地獄絵図(じごくえず)だったよ。
    腐乱(ふらん)した身元不明(みもとふめい)孤児(こじ)たちの死体に、屍食鬼(グール)とした()したアマリリスの両親。
    手術台に縛り付けられ、瀕死(ひんし)のアマリリス――身体は拷問(ごうもん)されたのか傷だらけだった。

アルト:拷問(ごうもん)……それじゃあ、あの時の言葉は……

シオン:あぁ、実の両親に人体実験の材料にされた時の記憶(きおく)だろう。
    すぐさま彼女を保護をし、治療を行ったよ。
    なんとか一命はとりとめたが、そこからが大変だった。
    今ではじゃじゃ馬娘とは言われているが、昔は大人しい引っ込み思案な子だった。
    回復した彼女の精神は(すさ)んでしまい、世界の全てに対して(にく)しみを抱いていた。
    それは私たちに対しても同じで、私たちを見つけると半狂乱(はんきょうらん)になり、殺しに来る(ほど)だったさ。
    そして、ある日、彼女は入院していた病院からいなくなった。
    消息(しょうそく)(つか)めず、死んでしまったものだと思っていたが――
    まさか、シトラスのところにいたとは思わなかったよ。

Scene 04

<ロンドン・ウェストミンスター宮殿/『時計塔の騎士団』本部>

アマリリスN:(なつ)かしい記憶。
       ボロボロの衣服(いふく)(まと)い、硫黄(いおう)(におい)いが(ただよう)貧民街(ひんみんがい)をフラフラと
       しながら歩いていた。
       しばらくは何も食べていない。
       空腹で死にそうだった。
       ここでは人が倒れていても、助ける者はいない。
       それは、当たり前の光景なのだから。
       死んだ時に、遺体の処理のために運び出す人間はいる。
       だから、死ぬまで倒れてーー

シトラス:大丈夫?

アマリリスN:優しい声が聞こえた。
       (よご)れている自分の姿を心配そうに手を伸ばす、ひとりの女性。
       これがシトラスとのファースト・コンタクト。

シトラス:すごい熱! このままじゃいけない!!

アマリリスN:自分の服が汚れるのかもしれないのに、それを気にせずに私を抱きかかえた。
       その日は雨が降っており、傘をささずにひたすらに走る。
       やがて、雨でずぶ濡れになるけれども、彼女はそんなことはお構いなしだった。
       彼女は必死に教会へと走り続けた。
       その後、教会の保護施設で私は治療を受け、久しぶりにヒトの扱いを受けた。

<部屋をノックして、アマリリスの部屋に入るシトラス>

シトラス:大丈夫? お熱が下がったって聞いたけど。
     ご飯、食べないの?
     食べないとーー

アマリリス:うるさい!!

シトラス:っつ!

アマリリス:私は誰も信じない!
      全てを信じない!!
      そうやって最初は優しくて、後になって裏切る!!

シトラス:そんなことはーー

アマリリス:うるさい、うるさい、うるさーい!!
      出て行けー!!

シトラス:……追い出されちゃった。

神父:困ったもんですよ、彼女の他者(たしゃ)への不信感は……

シトラス:神父様……

神父:彼女を救ってはあげたいのですが、彼女の心を(むしば)む闇を(ぬぐ)い取ること
   は容易(ようい)ではないでしょう。
   シスターたちも手を焼いていて……このままだとココを出て行くことになります。

シトラス:そんな……!!

神父:我々も神の教えを守って、こういったことをしていますが……
   限界というものがあります。
   それに救いを求めているの人は彼女だけじゃありません。

シトラス:そうかもしれませんが……

神父:残念ですが、またあの場所に戻ることになるでしょう。

アマリリスN:ほら、やっぱりそうだ。
       ヒトを救うなんて大層なことを言っておきながら、
       そんな事は不可能だ、所詮(しょせん)は偽善だ。
       そう思っていたーー

シトラス:――だったら、私が彼女の面倒を見ます!

神父:えっ?

アマリリス:えっ?

シトラス:彼女のことを完全に理解しているわけじゃないんです!
     けれども、私は彼女と出会い、彼女という存在を知りました!
     彼女は苦しんでいた! 誰かに助けを求めていた!!
     神父様が見れないというのなら、責任を持って私が貰います!

アマリリスN:正直信じられるはずもなかった。
        血も(つな)がっていなくて得体(えたい)の知れない奴と一緒に暮らす?
        しかも、貧民街にいた時点でマトモじゃない。
        でも、あの時に聴こえた声は温かくて、力強いモノだったのを覚えている。 
        嘘偽(うそいつわ)りだと感じさせない、まっすぐとした言葉。

シトラス:彼女は生きたいんです!
     だったら、その気持ちを捨てさせちゃいけないんです!!

アマリリスN:涙が止まらない。
       どんなに(ぬぐ)っても、(ぬぐ)っても、(なみだ)(つぶ)は落ち続ける。
       やがて嗚咽(おえつ)が漏れる、外に聞こえないようにすかさず声を殺した。
       すると……

シトラス:どうしたの?!
     大丈夫?

アマリリスN:心配そうに声をかけてくる彼女。
       先程の反抗心(はんこうしん)は消えていた。

アマリリス:私、生きていていいの……?
      生き続けていいの……?

シトラス:大丈夫、大丈夫よ。
     あなたは生きるべきなの、幸せになるべきなの。
     ヒトはそうやって産まれてくるものなのよ。

アマリリス:うん……うん……

シトラス:私があなたを守ってみせる。
     自分の足で立ち上がって、前を向けるようになるまで。

アマリリス:ううっ……うわあああああああああん!


(間)


アマリリス:うっ……ここは……あれ?
      ベッドの上……そうか、夢だったのか。
      ……昔の話をして、それから。
      ちっ、(なさ)けないところを見せちまったか。
      ……(いま)だに、過去に(しば)られたままか。

シオン:目が覚めたか、アマリリス。

アルト:大丈夫ですか?

アマリリス:二人とも……わりぃ、変なところを見せちまったな。

アルト:そんな……

アマリリス;その顔だと、どうせシオンが話したんだろ?
      私の昔の話を。

アルト:はい……

アマリリス:そういうことだ……自分では克服(こくふく)したと思っていたけど……
      まさか、こんなに(しば)られているとは思わなかった。
      ……だせえな、私。

アルト:……ダサくないですよ、アマリリスさん。

アマリリス:えっ?

アルト:シオンさんから色々と聞かせてもらいました。
    あなたが貧民街(ひんみんがい)にいたこと、どうしてシトラスさんの元にいること、
    そして……あなたがシトラスさんに対して深い恩義(おんぎ)を感じていることを……

アマリリス:まったく、色々と教えやがって……

シオン:すまないね、色々とつい、だ、
    悪意はないさ。

アルト:少なくとも、あなたは変わりました。
    それだけでも強いし、カッコいいです。

アマリリス:アルト……

アルト:どんなヒトでも弱い部分はあるんです。
    それに対して全て克服(こくふく)しろと言いません。
    けど、それを「ダサい」という言葉で片付けないでください。

シオン:…………驚いた、君は随分(ずいぶん)熱血漢(ねっけつかん)だったんだな。

アルト:あ、その……えっと……

アマリリス:おい。

アルト:はい!

アマリリス:……好き勝手言いやがって。

アルトM:あれ、これ、殴られるパターン?

アマリリス:……あ、ありがとよ。

アルト:ど、どういたしまいて。

アルトM:んっ? どうして照れているんだ?

シオン:……ふーん。

アルト:あれ? シオンさん?
    どうかしましたか?

シオン:別に〜?

アルト:ちょっと! どうして不機嫌になっているんですか?!

シオン:うるさい。

アルト:あいたっ!?

アマリリス:(※小声で)本当に、変な奴……ふふっ。

Scene 05

<ロンドン・ベイカーストリート/フラワー・トレンメル>

リス:シトラス、シトラス!

シトラス:ん? どうしたの、リスさん。

リス:僕、シトラスに伝えなきゃいけないことがあるんだ。

シトラス:なあーに?

リス:耳を貸して……実はね……


(間)

ギルバート:やあ、シトラス。

シトラス:っつ!
     ……ギル。

ギルバート:どうしたの?
      顔色が悪いけど……何かあった?

シトラス:ううん、大丈夫!
     ちょっと昨日、面白い本を読んじゃって夜更(よふ)かししちゃったの!
     それで、ちょっと睡眠不足で……

ギルバート:そうか……気をつけないとね。

シトラス:そ、そうね……それで、今日はどうしたの?

ギルバート:もちろん、シトラスに会いにきたんだ。

シトラス:そ、そう……ありがとう。

ギルバート:そういえば、アサガオの花、ありがとう。
      とても綺麗だよ、家に飾ってる。

シトラス:気に入ってくれて嬉しい。

ギルバート:実はさ、職場の上司もアサガオが大好きらしくて。
      それで買ってきてくれとお(つか)いを(たの)まれちゃってね。
      前にくれたものと同じのをくれないかな?

シトラス:う、うん……ちょっと待ってね。

ギルバート:ありがとう、すまないね。

シトラス:はい、どうぞ。

ギルバート:ありがとう。
      うん、綺麗だね。
      あの時も思ったけど、色合いも絶妙なバランスで素敵だ。
      花屋が天職なのかもね。

シトラス:それは言いすぎだよ。

ギルバート:あはは、あっ……ごめん、そろそろ行かなくちゃ。
      それじゃあ、また来るよ。

シトラス:ねえ、ギル。

ギルバート:なんだい? シトラス。

シトラス:……何か隠し事をしていない?

ギルバート:……どうしてだい?

シトラス:……なーんてね、ちょっといじわるしてみただけ。
     すぐに帰っちゃうなんて、(さみ)しいから何となくね。

ギルバート:あはは、(あや)うく(しゃべ)ってしまうところだったよ。

シトラス:気をつけてね、お仕事頑張って。

ギルバート:うん、ありがとう。
      それじゃあね。

シトラス:うん、またね……

<ギルバートがいなくなったのを見計らって>

シトラス:ねえ、リスさん……あなたが見た、ジャック・ザ・リッパーってあの人?

リス:間違いないよ! あの男だ!!
   ちゃんと仮面(かめん)を外したところを見たもん!!

シトラス:そう……なのね……

シトラスM:私はどうしたらいいの……?
      好きな人が連続殺人事件の犯人だなんて……私は……


(間)


ギルバートM:あのシトラスの様子……まさか、勘付(かんづ)かれたか……?
       いや、大丈夫だ。
       バレるはずがないさ。
       決して、決して……彼女だけには知られてはいけない。
       大丈夫だ、大丈夫。
       全てうまくいっている、僕が害虫を駆除(くじょ)しているだけなんだ。
       大丈夫、大丈夫。
       ここまで来たんだ、苦しみ続けたんだ。
       だから、きっと……大丈夫。
       後悔なんて……ずっと前からしているんだから。


(END)

マギウス・アーティファクト #02.ロナンの涙 3/4:追憶の後悔と希望

この物語はフィクションです。

登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

マギウス・アーティファクト #02.ロナンの涙 3/4:追憶の後悔と希望

妖精と、人間の間に産まれた子。 それは妖精と、人間と、そして世界を救う『運命の仔』。 イギリスを舞台にした魔法ファンタジー劇、第二弾! ※声劇台本です。

  • 自由詩
  • 短編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-27

CC BY-ND
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  1. 台本概要
  2. 登場人物
  3. 上演貼り付けテンプレート
  4. アバンタイトル
  5. Scene 01
  6. Scene 02
  7. Scene 03
  8. Scene 04
  9. Scene 05