マシュマロ

 ゆめみたいな時間のおわりの、孤独に、甘くてやわらかいものを詰めたい。きえいりそうな、あの惑星の、ひかりを追うように、高速道路をはしる。カーステレオからきこえてくる、しらない国のうたと、ハンドルをにぎる、七世(ななせ)の吸う、たばこのにおい。窓をあけて、ながれゆく、けむり。ぼくは静かに、すぎさってゆく高速道路の、オレンジ色の灯りをかぞえて。七世の横顔を、ちらりとみて、ああ、はやく、ふたりの家にかえりたいと祈るように思う。
 海には、おかあさんがいる。
 みんな、おかあさんのところへ、かえっていく。ともだちも、バイト先のひとも、いつも行くコンビニのひとも。みんな。
 いずれは、ぼくも、七世も、行くのかなぁとつぶやいたとき、七世は、ぜったいに行かないし、行かせないと、きっぱり言い切って、そうか、行かなくてもいいのかと思った。ときどき、無意識ににんげんがもとめてる、母性、というものを、七世は、おかあさんにはもとめていないのだという。ぼくは、おかあさん的なものを、七世の言動に感じる瞬間がある。おかあさんがいなくても、ぼくらは、ふたりで生きていけるのかもしれない。おたがい、平らかな胸に頬をよせて、ぼくらは、やすらぎをえているのだ。毎夜。毎夜。
 夏がおわってからの夜は、つめたい。
 冷蔵庫のなかにいるみたいに。

マシュマロ

マシュマロ

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-26

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