非我の隨に

ゆきひらさぎり

576.02.05

 未明の沙塵は碧く、ふたしかさのそればかり滲むふうで視界にやかましい。まだ薄い星辰の零れおちてひさしい夜。再奏され、あわいを歪めるはたから朽ちゆく夜。終わらないのか。終われないのか。もとよりなかったものなのか。わたしはあなたのいつだかを、どこかへ置き忘れてきたのかもしれない。わたしはあなたの永遠を、どうしたって見つけてあげられなかったのかもしれない。あなたはあなたを漂泊し、ひかりの汀に理法を灼きつける。あなたはあなたを往還し、もう随分と浅くなったねむりを架空する。無際限に。
 ゆびさき。樹泉にひたすが痛みのおさまる気配はない。すすむか、とどまるか。旅の溟濛の恒常と纏わるものであるとして、それと知ってなお途上に弛まぬこの身であるのだけれども、われながら、という心持の晴れる折は無く、歩むかぎり揺れる。振れる。しかしだからこそありつづけられるものとも感ぜられ、揺らぐからこそ、振れるからこそかえって均衡のたもたれつづけるわたしであるとも感ぜられ、よってとどまることはなく…彷徨、飽くなき流離、流亡? ゆびさきが痛い。
 空洞の周縁。大気の境界。遠景の遠景らしさはどの地点から開始されるのでしょうか。開始。発生。発生するのでしょうか。生ずるのでしょうか。まばゆさ。陽とゆらめき。茫洋。散乱するのは燈で、離背は是非も無い。根源ばかりが通じても、そのさきなんかがあなたにあるわけない。ないのか。あるわけのないもののあるとして、つまりは群泳というものの荒地において行為されるとして、火によって、永劫の火によって、永劫の火は一般的にはそうした性質を持たないのだから外、からのはたらきかけがあるということになりますが、そうなんですか。外部。以外。ではないなにか。あなたではないだれか。わたしではないわたしは傍観者です観測者です月の複数の夜、あの夜、あのうつくしい、きれいな、やわらかなよるのあとどれくらいしたらおとずれるのですかこがれているのですぼくはずっとだからはやくおいでここにおいで。
 透徹、逆巻いて、浸潤の過程に無数の融点を仮相する、から潤うのだわたしだって渇かないでいられるのだ雨はなくともありがたいことにそうなのだ、雨、必要ないのかこの地に、いいのか。

576.02.06

 再現性といったものの完全に損なわれた以上、似てでもちがった今日とか明日のくりかえされることはもはやない。この時間だって一度きり、どうしたって次なんかない。とは言いきれない。だったらいいけどそういう感じはしない。月の月であることを疑うだとか疑うまでもないだとかばかみたいだから終わってしまえばいいのに世界だとかぜんぶばかかよって思いたくなるの思いたくないの思われたいのかなんもかんもでたらめ。とは言いきれない。ばかがよ。
 天元に領域の無数に展開されてゆく。されゆくそばからとけあって、残響。色彩の湧水みたくむこうがわからあらわれてとどまりようのない…ふうに見える。枯れるのか。あるいは幻像。とっくに枯れている。
 見上げるばかりでわたしはもう寝たい。横たわってながめたっておそらはおそらに還らないし星が星であったいまもきっとずっとない。地表は地表で定かなままでうそみたくぼくはやすらぐのだった。つめたさの偶因。窓越しの淵源。薄闇くらいに好きでいた。恋とか渫って一切を、あなたは悉に忘じて咲いていい。あざれてどうしてほころんで、愛かもしれずにあなたは咲いていい。
 呪われぞこなうそのたびに、ぼくたちはぼくたちらしきものを手放さなければならなかった。それでなくてはならなかった。そのときはそうだったし、そう信じてもいた。それだけだった。花とか、無明、徒を知って最果て、酔うまでもないの凪いで翳を踏むの線上、まだ夢をみている。こどものままでいる。
 痛みのやわらぐ感じがある。ゆびさき。本来ならば避けるべきところをあえて使うゆびさき、おそるおそる、で、なんというか、たしかめる、具合とかどうなの? って、そうすると案外にいけて、いけた、となり、じゃあいけるねって思ったりする、というわけで、どうなの? まだだめ。

非我の隨に

非我の隨に

ある詩人の手記

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-26

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  1. 576.02.05
  2. 576.02.06