ドンペリの泡よ消えないで 弐 「気が付かない男」 (1:2)

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舞台がキャバクラのため、演者さんは15歳以下× 18歳以上推奨とさせていただきます。

ダイスケ 20代後半以降(演者さんに合わせて可)恋愛経験がないコミュ障。無自覚なマザコン。

エリカ 21歳 キャバ嬢で大学生。ロリっぽい美貌で人気キャスト。負けず嫌いな性格。

ハヅキ 21歳 キャバ嬢で大学生。エリカの友人。普通の大学生。クールな性格で、時給さえ稼げればいいと割り切っている

※上演時間40分~50分


◆◆◆

ダイスケ:「……なに? 別に普通。……うん……うん、大丈夫だって。ちゃんと食べてるから。……いいよ、送ってこなくて、こっちで買えるから。……うん、……なんでだよ、オヤジと行けよ。……もう切るよ。じゃあね。
……え、またその話? いや、いないけど。……やだよ! 見合いとかしないから! 絶対断って……え? はあ、ふざけんな! なんで、そんな恥ずかしいことするんだよ! もう電話してこなくていいから!」(切る)

ダイスケ:『母は週に一度のペースで電話してくる。はっきり言ってうざい。
特に、彼女はできたか、孫の顔が見たい、と毎回言ってくるのがめんどくさい。
母には言っていないが、俺には恋人がいる。
今は、誰にも紹介できないけど。とても純粋で、太陽のような笑顔を俺に向けてくれる本当に素敵な女性だ』

(キャバクラ 店内)

ハヅキ:……

ダイスケ:……

ハヅキ:お代わりいります?

ダイスケ:ううん、いらない。

ハヅキ:そうですか。

ダイスケ:うん。

(間)

ダイスケ:あのさハヅキちゃん?

ハヅキ:はい

ダイスケ:エリカ、まだかな?

ハヅキ:あーわかりません。多分、他の席に呼ばれてるんじゃないでしょうか?

ダイスケ:いや、いいんだけど。

(間)

ハヅキ:ダイスケさん、今日もお仕事だったんですか?

ダイスケ:うん、そうだけど。

ハヅキ:お忙しいですか?

ダイスケ:うん、まあまあ。

ハヅキ:そうですか、大変ですね。

ダイスケ:うん、まあ……

ハヅキ:朝早いんですか?

ダイスケ:うんまあ、普通かな。

ハヅキ:そうですか……

(エリカ、やってくる)

エリカ:ダイスケさん! ごめん! 遅くなった!

ダイスケ:エリカ! ううん、いいよ。

エリカ:あ、ハヅキ、ヘルプ、ありがとう!

ハヅキ:じゃ、私ちょっと他の席のヘルプ行ってくるね。

エリカ:うん、わかった、またあとでね。ごめんねーダイスケさん、指名してくれたのにすぐ来れなくて!

ダイスケ:いいよ、いいよ。なんか、最近、エリカを指名するお客さん増えてきたね。まあ、しかたないけど。

エリカ:そんなことないよ。なんか人足りてないらしくて、あちこち呼ばれちゃって、疲れた。はぁ……ちょっと休憩していい?

ダイスケ:うん、もちろん。

エリカ:よかったぁ、ダイスケさん来てくれて……もう、来てくれないかと思ってた。

ダイスケ:うん、ごめんね。

エリカ:前は週3で来てくれたのに。他にいい子いたのかなー?って思うじゃん?

ダイスケ:そんなことあるわけないだろ?

エリカ:ほんと?

ダイスケ:もちろん。

エリカ:絶対?

ダイスケ:うん。

エリカ:絶対の絶対?

ダイスケ:うん

エリカ:うん、じゃわかんない。

ダイスケ:エリカ、だけだよ。

エリカ:ほんと? 嬉しいなー!

ダイスケ:『エリカは、嬉しさあまって、俺の腕に手をかける。ドレスに包まれた小さな胸の感触が伝わってくる』

エリカ:ねぇ。

ダイスケ:ん?

エリカ:それから?

ダイスケ:え?

エリカ:せっかく久しぶりに会えたんだから、ダイスケさんと乾杯したい。

ダイスケ:うーん、でも、ごめん、今日は……

エリカ:そっか……

ダイスケ:ごめん。

エリカ:うん、いいよ別に。無理言ってごめんね。

(間)

ダイスケ:あのさ。

エリカ:なに?

ダイスケ:今度、遊園地いかない?

エリカ:遊園地? んー……

ダイスケ:うん、カップルが一緒に乗ると幸せになれる観覧車があるんだって。

エリカ:んー。学校とバイトであんまり時間なくて。

ダイスケ:……最近、あんまりデートしてないからたまにはさ。

エリカ:んー、サークルとか教材とかでお金かかるからさ、厳しくて。バイト頑張らないと。

ダイスケ:いやでも、息抜きも必要だと思って。

エリカ:んー……。そりゃ行きたいけど、ダイスケさん最近、冷たいし。

ダイスケ:冷たいって?

エリカ:別に。

ダイスケ:……わかったよ、白でいい?

エリカ:やだ。

ダイスケ:そんなこと言われたって。

エリカ:ピンク。

ダイスケ:(ため息)じゃあピンクで。

エリカ:本当? やった! ダイスケさん、大好き!

ダイスケ:『エリカは俺に抱き着いてきた。小さな胸が俺のシャツに押し当てられ、シャンプーの匂いが鼻をくすぐる』

エリカ:ごめんね、わがまま言って。

ダイスケ:『エリカの小さな顔が上目遣いで俺を見上げてくる。かわいい。心底そう思う。彼女を不安にさせてはいけない。俺はエリカの細い背中を優しく撫でた』

ダイスケ:大丈夫だよ。

エリカ:ほんと?

ダイスケ:エリカがわがままなのは、今に始まったことじゃないだろ?

エリカ:ひどいっ!

ダイスケ:ははは、だって本当だろ?

エリカ:そんなことないもん。

ダイスケ:怒らないでよ。ほら、来たよピンク。

エリカ:あ、やった! ね、乾杯しよ?

ダイスケ:うん。乾杯。

エリカ:乾杯。んーおいしー!

ダイスケ:本当に今日だけだからね、俺もそろそろ貯金尽きてきてさ……

エリカ:うん、わかってる。

ダイスケ:エリカの為にもまた貯金したいから。毎回ピンクって訳にはいかないんだよ。わかってね?

エリカ:わかってるけどー、ダイスケさんの顔みたら嬉しくてつい甘えちゃうの。だから、ダイスケさんが悪い。

ダイスケ:いや、俺が悪いのはおかいしいだろ……

エリカ:エリカは悪くない。

ダイスケ:かわいく言えばいいと思って……

エリカ:えへへ、ごめん。

ダイスケ:お金は出せないけど、それ以外のものだったら、いいよ。いつでも相談とか乗るし、時間だってなるべく作るし……そうだ、遊園地はいつ行く?

エリカ:んー遊園地かぁ。私、乗り物、あんまり得意じゃなくて。どうしようかなー?

ダイスケ:じゃあ水族館は? 動物園とかの方がいい?

エリカ:んー……

(エリカとダイスケの席に、ハヅキが戻ってくる)

ハヅキ:エリカー? オーナーが呼んでるー。

エリカ:えーマジでー? どこ?

ハヅキ:右奥の個室。

エリカ:わかった、じゃハヅキ、ここお願い。

ハヅキ:はーい、了解!

エリカ:ごめんね、ダイスケさん、ちょっと行ってくるね。

ダイスケ:うん……

エリカ:(耳元で)いきたくないな……

ダイスケ:……っ!

エリカ:じゃあ、また後でね!

(エリカ退場 ハヅキ、ダイスケの横に座る)

ダイスケ:……

ハヅキ:……

ダイスケ:あのさ。

ハヅキ:はい?

ダイスケ:ハヅキちゃんってさ、エリカと同じ大学なんだよね?

ハヅキ:はい。

ダイスケ:エリカって大学ではどんな感じ?

ハヅキ:えー普通だと思いますけど。普通に授業出てますよ。たまに遅刻するくらいで。

ダイスケ:彼氏の話とか、する?

ハヅキ:あー……いやー……エリカは、あんまりそういうの人に話さないタイプなんで。あんまり聞いたことないですね。

ダイスケ:そっか、親しくしている男友達とかは?

ハヅキ:わかりません。かわいいんで、モテてはいるみたいですけど。

ダイスケ:そっか、だよね、そりゃあんだけかわいかったらね。

ハヅキ:ダイスケさんのことは、いい人だって聞いてますよ。ダイスケさんがお店に来てくれると頑張れるって。

ダイスケ:そう……そうなんだ……?

ハヅキ:シャンパンまだありますけど、飲みます?

ダイスケ:いや、焼酎、もらえる?

ハヅキ:わかりました。いつものお湯割りでいいですか?

ダイスケ:うん、いいよ。

ダイスケ:『エリカとの出会いは、半年ほど前。会社の上司に連れて来られた先が、キャバクラだった。俺があまりにも女性と話すのが苦手だから、練習のために、とかなんとか言っていた気がするが、それはただの口実だろう。
上司はすぐにお気に入りの子を席につかせて鼻の下を伸ばし始めた。
俺の隣には、いろんな女の子が交代で来た。
フリーで入った場合、女の子が順番に挨拶に来るシステムらしく、俺はしばらく苦痛の時間をすごした』

(回想 キャバクラ店内)

ハヅキ:はじめまして、ハヅキです。

ダイスケ:ああ、どうも。

ハヅキ:……

ダイスケ:……

ハヅキ:初めてですか?

ダイスケ:うん、上司の付き合いで。

ハヅキ:そうなんですね。

ダイスケ:うん、そう。

ハヅキ:緊張してます?

ダイスケ:うん、まあ……

ハヅキ:そうですか。気にしないで、楽しんでくださいね。

ダイスケ:いや、こういうところ苦手だし……

ハヅキ:そうですか。

ダイスケ:うん。

ハヅキ:……

ダイスケ:……

ハヅキ:何か飲みます?

ダイスケ:いいよ、まだあるから。

ハヅキ:そうですか。

ダイスケ:うん。

ダイスケ:『ハヅキちゃんとの出会いもこの日だった。エリカと友達で、学費を稼ぐために、このキャバクラに一緒にバイトで入ったらしい。
気まずい沈黙を持て余しているところに、やってきたのがエリカだった』

エリカ:ハヅキ、なにしてんのー? あ、新しいお客さん?

ダイスケ:『その姿に、俺は一瞬で心を奪われた。艶々とした茶色のロングヘア、白いドレスに包まれた小柄で華奢な体。
大きな目と、口角を大きく上げて笑う笑顔は、アイドルでもおかしくないほどにかわいかった。
今思えば、あれは一目惚れだったと思う』

エリカ:私も座っていい?

ハヅキ:あ、じゃあ私他のお客さんのところ回ってくる。

エリカ:えー一緒に飲もうよー?

ハヅキ:もー、飲みに来ているわけじゃないんだから。

エリカ:えへへ、だってハヅキといたいー!

ハヅキ:ダメだってば。私とは学校で話せるでしょ。

エリカ:はーい。あ、ノエルちゃんの席、ヘルプ欲しそうだったよ。

ハヅキ:そう、わかった行ってくる。

エリカ:じゃあね、また後でね。

ハヅキ:はいはい。じゃあ、私は、失礼します。

エリカ:あ、初めまして、エリカです。がさつな奴ですが、よろしくお願いします。これ、名刺です。

ダイスケ:あ、あ、じゃあ、俺も名刺……

エリカ:ありがとうございます。「日高 大輔(ひだか だいすけ)」……ダイスケさんって呼んでいいですか?

ダイスケ:あ、はい……

エリカ:私のことは、エリカ、って呼んでください。

ダイスケ:はい、エリカ、ちゃん。えっと、ごめんね、俺、上司に連れられてきたものの、女の子と話すの得意じゃなくて。

エリカ:え、私も人見知りですよ?

ダイスケ:そう、なの?

エリカ:一緒ですね!

ダイスケ:あ……

ダイスケ:『エリカはそう言って俺の右手を両手で取った。その手はとてもあたたかくて、柔らかかった』

エリカ:でも、せっかく出会えたんだから、今日は一緒に楽しく飲みましょうよ。

ダイスケ:うん、でも……

エリカ:そうだ、いいこと考えた。ちょっと手借りますね?

ダイスケ:『エリカはそう言うと俺の右手を取り、掌にストローでオレンジジュースの水滴を垂らした』

エリカ:これが、「ダイスケさんの人見知り」

ダイスケ:『俺の掌がぐいと引き寄せられる。エリカはそのまま水滴をちゅっと啜った。小さな唇の感触……。初めて知る、女の子の唇の感触だった』

エリカ:これで、もうダイスケさんは、人見知りじゃありません!

ダイスケ:『そう言って太陽のように笑うエリカ。俺はいつまでも掌に残る唇の余韻に茫然としていた』

エリカ:だから、今日は楽しくお話しましょ? 私ダイスケさんのこと知りたいな。

ダイスケ:いや、でも俺の話なんて面白くないよ? エリカちゃんと比べたら俺なんておじさんだよね?

エリカ:えー全然おじさんじゃないですよ! そんなこと言わないでください。

ダイスケ:そうかな、でも、俺モテないし。

エリカ:そうですか? 私、タイプですよダイスケさんの顔。

ダイスケ:え?

エリカ:私って、年上の人好きだし。中学の頃から妻子持ちの先生とかを好きになって、友達に変わってるって言われてたんです。そんなに変わってますかね、私?

ダイスケ:そ、そんなことないと思うよ?

エリカ:ダイスケさんは私じゃ嫌ですか? 確かに私、がさつだし、いつも接客がなってないって怒られるんです。ナンバーワンの麗(ウララ)さんとか、すっごいキレイだし、接客も完璧で、大人の余裕って感じですよね。ダイスケさんも、ああいうキャストさんの方がいいですか?

ダイスケ:ううん……そ、そんなこと、ないよ。エリカちゃんで、いいよ。

エリカ:よかった! うざくないですか? こんなグイグイ来ちゃって。

ダイスケ:そんなこと、ないよ。

エリカ:よかったー、嬉しいな! 私学生バイトだから、ガキって思われて相手にされないと悲しいんですよね。

ダイスケ:いや、大丈夫だよ……。

エリカ:でも色気は欲しいなー。ねぇ、ダイスケさん、大人の色気ってどうやったら出ると思います?

ダイスケ:いや、それは……

エリカ:教えてくださいよ。

ダイスケ:いや、俺に聞かれても。

エリカ:ダイスケさん大人でしょ? 私より。

ダイスケ:いや、そうだけど……

エリカ:ちょっとどうしたんですか、ダイスケさんー! 今日は人見知りじゃないんでしょ?(笑う)

ダイスケ:(つられてぎこちなく笑う)

(ハヅキ入ってくる)

ハヅキ:あ、すみませんー! エリカ、オーナーが呼んでる。

エリカ:え、そうなんだ? 行かなきゃ。ごめんなさい、ダイスケさん。

ダイスケ:え、もう行っちゃうの?

エリカ:多分、次の女の子来るんで。ちょっと待っててくださいね? またね、ダイスケさん!

ダイスケ:そんな……

(エリカ、去る)

ハヅキ:もしかしてエリカのこと気に入ったんですか?

ダイスケ:うん、まあ、……いい子だっだし、話も合ったから。

ハヅキ:じゃ指名しますか? 指名料はかかりますけど、ずっとこの席につけることができますよ。別のお客さんと指名が被った場合は、ずっとという訳には行きませんけど。

ダイスケ:指名……?

ハヅキ:どうします?

ダイスケ:うん、するよ。エリカを……指名する。

ダイスケ:『他の女の子とは話せない俺が、エリカと話していると時間を忘れる。そのかわいい笑顔を見ていると夢見心地で、気が付けば閉店まで延長していた。
帰り道、まだ夢をみているような心地で、歩いていると、エリカからメールが来た』

エリカ:(メール)「連絡先教えてくれてありがとう! さっそくメールしちゃった! 今日はすごく楽しかったね。時間があっという間だったよ。よかったらまたダイスケさんと話したいな。今度の日曜空いてる? よかったらカラオケとか行きませんか? 迷惑だったらごめんね(汗)」

ダイスケ:『そんなことあるわけない、と思っていたが、俺の勘違いではなかった。エリカも俺と同じ気持ちだった。初めての両想い。ついつい頬が緩んでしまう。
それから、デートを重ねて、距離を縮めた。
エリカは店と学校の両立で忙しいらしく、普通の恋人同士のようには会えないけれど、夢のように楽しい時間だった。
しかし、半年ほど過ぎた頃には、プライベートで会う頻度はどんどん減って、いつしかお店でしか会えなくなっていた。
このままでは、いけない』

(回想終わり)
(ダイスケの家)

ダイスケ:「……なに、もうかけてこないでって言ったよね? うん…うん…わかってるって。……は? やめてっていったよね? 意味わかんないんだけど。……うん……だから?もういいって!(切る)」

ダイスケ:『母はしきりに見合いを進めてくる。相手は、俺より年上だったり、バツイチだったり……未だに、俺はモテないと思い込んでいるのだろう。
母に、エリカを紹介したらどんな顔をするだろう、とよく考える。まずは、すごく驚くだろう。
元キャバ嬢という経歴を最初は嫌がるかもしれないが、大学の学費を稼ぐためにちょっとだけバイトしただけで、本職ではない。今時は、よくある話しだ。
エリカも学費が稼げればキャバは辞めて、大学を卒業したら普通の仕事に付くと言っている。
コミュ力の高いエリカのことだ、母ともすぐ仲良くなってくれるだろう。
母とエリカが笑っている食卓。それはとても幸せな光景だろう』

(キャバクラ 店内)

エリカ:ねぇねぇ、ダイスケさん!

ダイスケ:な、なに?

エリカ:今度イベントがあるの! ハロウィンイベント!

ダイスケ:……え? この前、夏のイベントがあったばかりなのに、また、あるんだね。

エリカ:前回は浴衣だったけど、今度は、みんな違うコスプレするんだよ? 絶対来てね? 私もダイスケさんの好きそうな衣装にしたから!

ダイスケ:う、うん……

エリカ:でね、その日はスペシャルシャンパンがメニューに加わるの!

ダイスケ:そうなんだ…それいくらなの?

エリカ:んーいろいろあるよ、一番高いのは何百万もするけど。

ダイスケ:(ため息)

エリカ:どうしたのダイスケさん?

ダイスケ:いや……それ、俺に入れろって、こと?

エリカ:え……

ダイスケ:(ため息)……

エリカ:ダイスケさんが嫌なら無理にとは言わないよ? けどさ、みんな入れてもらってるのに、エリカだけ一本も入れてもらってないと恥ずかしいなって。

ダイスケ:みんな、ってハヅキちゃんも?

エリカ:ハヅキは別だよ! あの子は、時給さえ稼げればいいってタイプだから。私は、学生バイトとはいえ、手を抜くのは違うっていうか、お金もらう以上はプロ意識もってやんなきゃって思うタイプだから。
どうせ学生だから、とか言われるの、嫌なんだもん。

ダイスケ:それは、立派だとは思うけど、でも……

エリカ:でも…?

ダイスケ:俺はさ、本当はシャンパンより焼酎が好きなんだ。高い店よりもラーメンが好きだし。ブランド物着てるエリカよりも、普段学校で友達といるような服のエリカが見たい。
エリカが喜んでくれるならって頑張ってきたけど、ちょっとなんか違うかなって最近思えてきた。
最近、2人で会ってくれないし。

エリカ:だってそれは……最近課題が多いんだからしょうがないじゃん。

ダイスケ:わかってるよ、けど……もうちょっと俺に合わせてくれてもいいんじゃないかなって。

エリカ:うーん、そう言われても。

ダイスケ:キスとかしようとすると逃げるし……

エリカ:え、ちょっと! 店外の話は店ではしない約束だよね!?

ダイスケ:ごめん……でも、俺だって、好きな子とはそういうことしたいよ、当たり前だろ?

エリカ:もういい!

(エリカ席を立つ)

ハヅキ:どうしたんですか? なんかエリカ泣いてましたけど。

ダイスケ:泣いてた?

ハヅキ:はい。なにかあったんですか?

ダイスケ:そっか、うん……ごめんね。

ハヅキ:私に謝られても……もしかしてハロウィンのことですか?

ダイスケ:うん、まあね。さすがに、ちょっと高いよ。中小企業勤めの俺に出せる額じゃない。

ハヅキ:あーそれで泣いてたのか。ダイスケさんのこと頼りにしてるから。

ダイスケ:うん、悪いと思ってる。でも……なんかエリカの気持ちがわからなくて。

ハヅキ:そうですか? 私には、ダイスケさんの席にいるときが一番落ち着く、ってよく言ってますよ。

ダイスケ:そう?

ハヅキ:私から見ても、ダイスケさんの席にいるときが一番テンション高いなって思うし。ダイスケさん来ない日は、寂しそうにして、私のこと忘れちゃったのかなって、愚痴ってくるんですよ。

ダイスケ:そっか、ごめん、俺、誤解してたかも。わかった。なんとかする。

ハヅキ:ほんとですか?

ダイスケ:いやでも、期待しないで! 無理かもしれないから! エリカには言わないで!

ハヅキ:わかりました。エリカのことよろしくお願いしますね。今日は私が慰めておくので。

ダイスケ:うん、ありがとう、ハヅキちゃん。

(ダイスケの家)

ダイスケ:「……だから、なんだよ。かけてくるな、って何度言えば……え、あ……そうなんだ。うん、わかった……うん、ちょっと落ち着いたら帰るよ。……うん、無理だよ、仕事なんだから。……うん……うん、……あのさ……いや、なんでもない、じゃあね」

ダイスケ:『少しずつためていた貯金はもうない。売れそうなものは売ったし、生活費もギリギリまで切り詰めている。休みの日は会社に内緒で日雇いのバイトもしている。
それでももうない。
お金……手に入れる方法は、一つしか思いつかなかった』

(キャバクラ 店内)

ハヅキ:あ、ダイスケさん!

ダイスケ:『ハロウィンイベントの日、俺が久しぶりに店に行くと、キャスト全員、仮装というかコスプレをしていて、各席で盛り上がっていた。エリカを探すと、ピンクのナース服を着て、席についている。太陽のような笑顔で、なにか面白いことでもあったのか、隣の客の肩を叩いている。テーブルには、シャンパン。おそらく、イベントの特別メニューだろう』

ハヅキ:久しぶりですね。エリカですよね、ちょっと待ってくださいね。

ダイスケ:うん……

ハヅキ:どうですか? 私も一応着てみたんですよ。

ダイスケ:うん、かわいいね、ミニスカポリス?

ハヅキ:そうですよ。逮捕しましょうか?

ダイスケ:いや、いいよ。

ハヅキ:興味なさそうですね。本当にダイスケさんってエリカ以外には塩対応ですよね。

ダイスケ:そうかな、あ、ごめん。

ハヅキ:いいんですよー。ダイスケさんの指名はエリカなんだし。私はあくまでヘルプですから。

ダイスケ:うん……

(エリカ、来る)

エリカ:ダイスケさん! 来てくれたんだ!

ダイスケ:『しばらくすると、ナース服のエリカがやってきた。ミニスカートから細い足がすらりと伸びて、胸元にはおもちゃの聴診器をつけている。
相変わらず太陽のような笑顔に思わず目を細める。何度見ても、やっぱり本当にかわいい』

ダイスケ:エリカ……

エリカ:どう? ダイスケさんこういうの好きかなと思って。

ダイスケ:……ちょっと話がある。座って。

エリカ:え? ごめん、今日、ちょっと忙しくて、あんまり長くいられないけど……

ダイスケ:いいから。

エリカ:うん……

ダイスケ:俺のこと、好き?

エリカ:え?

ダイスケ:いいから答えて、俺のこと好き?

エリカ:う、うん、もちろん好きだよ? ダイスケさんはいつも優しいし、話してて楽しいし。

ダイスケ:顔も好きって言ってくれたよね?

エリカ:え、うん、ああ、そんなこと言ったね。うん、そうだね。けっこう好きだよ。

ダイスケ:俺が今日、エリカをイベントで一番にしてあげる。

エリカ:え?

ダイスケ:だから、今日は、俺と一緒に居て。

エリカ:え? ああ、アフターってこと? う、うん、いいけど。

ダイスケ:約束だよ。

エリカ:一番にしてくれるの? うれしい、けど……でも無理しなくていいんだよ?

ダイスケ:無理はもうしてるよ、ずっと前から。

エリカ:……

ダイスケ:エリカが喜んでくれるならって無理してきたけど、もう終わらせたいんだ。

エリカ:え、ちょっと待ってどういうこと?

ダイスケ:黒服さん!

ダイスケ:『俺は手を挙げて、黒服さんを呼んだ。』

ダイスケ:クリュッグの黒を!

ダイスケ:『それは、一本300万のシャンパンの名前だった。普段は高すぎてお店に置いてない、イベント限定のメニューだ。
店内にどよめきが走る。黒服さんがうやうやしく運んできた黒いボトルをお客さんもキャストもみんなが遠巻きに見ている。
しかし……』

ダイスケ:エリカ……?

エリカ:え、あ……

ダイスケ:『エリカの様子がおかしい、いつもの太陽の様な笑顔がなく、黒服さんがシャンパンの栓を抜くのを見つめる目はどこか虚ろに見えた』

エリカ:え、えっと、あの……ありがとうダイスケさん、でも、あの本当にいいの? お金とかどうしたの?

ダイスケ:心配しないで、なんとかするから。これで、エリカがイベント一番だよね?

エリカ:うん、多分、そうだと思う……あ、ありがとうダイスケさん……

ダイスケ:いいんだ、俺さ、エリカと行きたいところがあるんだ。

ダイスケ:『本当にエリカと行きたいところは、一つしかない。遊園地でも、水族館でもなく、2人の関係を前に進めるために必要なこと』

エリカ:え、それって……

ダイスケ:うん、そういうこと、お店が終わるまで待ってるから。

エリカ:う、うん、わかった。えっとじゃあさ、ハヅキも一緒でいい?

ダイスケ:え?

エリカ:人多い方が楽しいじゃん? ハヅキにも一番になったお祝いして欲しいし。

ダイスケ:え……

エリカ:ちょっとハヅキに言ってくる。えっと、どこ行ったんだろ……

ダイスケ:待って! なんでだよ! ハヅキちゃんは呼ばなくていいよ!

エリカ:いやだって、ごめんね? 私さ、一度アフターで危ない目にあったことがあって、それ以来、アフターを一人で行かないようにって、お店に言われてるんだ。

ダイスケ:いや、おかしいだろ! 2人の時間だろ! アフターって言い方するなよ!

エリカ:ダイスケ、さん、ねえ、大きな声出さないで? みんな見てるじゃん……ね、楽しく飲も?

ダイスケ:……エリカはさ、俺と二人きりになりたくないの?

エリカ:いや、それは……

ダイスケ:学費いつになったら溜まるの? もうイベントで一位になったんだから、学生バイトだからって馬鹿にされないよね? ここで働く意味ないんじゃない?

エリカ:いや、まだちょっと、足りない、かな。

ダイスケ:エリカ?

ハヅキ:あ、すみません! エリカ、ちょっとオーナーが呼んでる。

エリカ:あ! うん、わかった、今行く!

ハヅキ:……

ダイスケ:……

ハヅキ:なんかすみません。

ダイスケ:いや、ちょっと、話し合いしてただけ。

ハヅキ:そうですか……あ、ダイスケさん、黒、飲みました?

ダイスケ:……ハヅキちゃん飲んでいいよ。

ハヅキ:飲まないんですか? じゃあいただきますね。……うん、おいしいですよ。

ダイスケ:ねぇ、ハヅキちゃんも、エリカは俺を好きだって言ってたよね?

ハヅキ:ああ、言いましたっけ? うん、一緒に居て癒される的なことは言ってましたよ。

ダイスケ:……ねえ、ハヅキちゃんからも、エリカにちゃんと話し合う時間が欲しいって言ってくれない?

ハヅキ:話し合いですか?

ダイスケ:うん、多分、なんか誤解があるみたいだから。ちゃんと話して早く仲直りしたいし。

ハヅキ:(ため息)いいですけど、ひとつ、いいですか? 

ダイスケ:なに?

ハヅキ:なんで、私がいつもダイスケさんの席にヘルプでついているかわかります?

ダイスケ:え?

ハヅキ:私が頼んでるんですよ、エリカに。

ダイスケ:え?

ハヅキ:鈍いですね……

ダイスケ:『ハヅキちゃんはじっと俺を見つめて来た。その目は、付けまつげとアイメイクで縁どられていたけど、多分メイクを落とせば、エリカほど美人ではないだろう。けど、ミニスカポリスの衣装の胸元からのぞく谷間は、エリカにはないものだ。……俺は混乱した』

ダイスケ:えっと、シャンパンもらっていい?

ハヅキ:はい、どうぞ?

ダイスケ:……(飲む)

ハヅキ:おいしいですか?

ダイスケ:……いや、なんか、わかんない。

(バックヤード エリカとハヅキ)

ハヅキ:はぁ、エリカ。イベント一位だってさ、おめでと。

エリカ:ありがと。いやー、まさか取れるとは

ハヅキ:狙ってたくせに。

エリカ:まあねぇ、あの女むかつくから、見返してやろうとは思ってたけど。

ハヅキ:ナンバーワンの麗(ウララ)?

エリカ:むかつくよね、私たちのこと学生バイトだって馬鹿にしてさ。

ハヅキ:「私はね~つい耳の痛いことも言うんだけど~このお店をよくして行きたいって思いから言ってるわけでぇ~みんなで楽しく自由にやろうね~ってそれもいいとおもうんだけど~それでお客さん本当に満足するのかなーって」

エリカ:それそれ。めっちゃ悔しそうな顔してたよ? ちょっと笑った。その学生バイトに負けてるんですけど、なんでですかー?

ハヅキ:私は別にどうでもいいけどね。もうすぐこのバイト辞めるし。

エリカ:えーそれは困るよー! やだやだ、ハヅキが一緒じゃないと無理!

ハヅキ:いや、だってきついし。なんか男性不信になりそう。

エリカ:私なんて元からそうだよ。でも、私たちもう21だよ? JKから見たらおばさんだよ? 稼げる時に稼いでおかないと。後で後悔しても遅いんだよ?

ハヅキ:金銭感覚狂いそうで逆に怖いもん。エリカももういいんじゃない? 学費は親が出してくれてるんでしょ?

エリカ:いやいや、このご時世だよ? 貯金はあるに越したことはないよ。年金だってどうせもらえないし、いつかは親の介護とかしなくちゃいけないんだし。

ハヅキ:彼氏に毎回貢いでる人が何言ってんのよ……

エリカ:あ、それは大丈夫! 今度こそ、いい人だから。

ハヅキ:え、いつの間にできたの? またホスト?

エリカ:ホストでも、バーテンでも、バンドマンでもないから安心して! よく行くドラッグストアの店員さん、話してたら仲良くなって、なんか付き合うことになった。

ハヅキ:……もって三ヶ月かな。

エリカ:ひっど! そんなことないって、今度こそ大丈夫だってば! めちゃくちゃいい人なんだって、礼儀正しいし。

ハヅキ:いい加減、安全牌(ぱい)の人を選んでよね。毎回、相談乗るの大変なんだから。

エリカ:安全牌? ダイスケさんみたいな……?

ハヅキ:……

エリカ:……

ハヅキ:ないね。

エリカ:まぁ、ないよね。

ハヅキ:そうだ、さっきダイスケさん、なんかちょっとヤバめだったから、あれやっといたよ、フォーメーションA

エリカ:別名「客の愛、分散作戦!」 ありがとう! 助かる!

ハヅキ:店にバレたらペナルティだから、勘弁してよね。しかし、あれ、本当に効くよね。毎回不思議でしょうがない。

エリカ:多分、今頃、モテ期来たとか思ってるんじゃない?

ハヅキ:思ってそうー! さすがにかわいそうじゃない? まさか300万のボトル入れてくるとは思わなかったー。破産させたんじゃない、エリカが。

エリカ:それはまあ、ごめん、って感じだね。

ハヅキ:うーわ。

エリカ:しょうがないじゃん、私が頼んだわけじゃないし。重すぎて、あからさまにドン引きしちゃったよ。

ハヅキ:だよねぇ……。しかし、ダイスケさん、ガチでエリカと付き合ってると思ってるよね。

エリカ:そうそう。なんでそう思えるのかわからない。彼氏、店に呼びませんけど? 言わないけどね。

ハヅキ:気をつけてね。ストーカーとかなりそうじゃない?

エリカ:なりそう。うん、わかった。気を付けるー。あ、今日はお祝いに一杯飲んで帰らない?

ハヅキ:あ、ごめん、今日は彼氏が迎えにくるから。

エリカ:あ、そうなんだ、じゃまた今度ね。色々お礼したいし、奢るからー。

ハヅキ:明日も大学でしょ。遅刻しないようにね。

エリカ:はーい。

(ダイスケの家)

ダイスケ:『突然のモテ期に、俺は悩んだ。エリカの本心は今一つわからない。ずっとそばにいてくれたハヅキちゃん。ハヅキちゃんとなら、やっと恋人同士らしいお付き合いができるのかもしれない。しかし、エリカに今まで使ってきたお金を思うとなかなか決断できない。
さんざん悩んだ結果、エリカに電話をかけることにした』

ダイスケ:「もしもし?」

エリカ:「あ、ダイスケさん? 今日は本当にありがとう。今ね、ハヅキの家なの」

ダイスケ「ハヅキちゃんもいるの?」

エリカ:「今、ハヅキはコンビニ行ってるから大丈夫。だからあんまり話せないけど、ごめんね」

ダイスケ:「そっか、あのさ、エリカ、聞きたいことがあって」

エリカ:「なに?」

ダイスケ:「俺たちってつきあってるんだよね?」

エリカ:「あー…」

ダイスケ:「俺のこと好きだって言ってくれたよね?」

エリカ:「え、言った?」

ダイスケ:「言ったよ!」

エリカ:「顔が好きとか、性格は好きとかは言ったかもしれないけど、言ったかなぁ? ははは、私すぐノリで好きーとか行っちゃうから。女友達とかにも」

ダイスケ:「付き合ってるってことでいいんだよね?」

エリカ:「んーなんていうか付き合っているも同然、見たいな? ダイスケさんには私じゃなくてもっと真面目で大人しい人の方が合うんじゃないかな。私みたいに、こんながさつで、夜の仕事しているような、女じゃなくてさ」

ダイスケ:「そんなこと俺は気にしない。俺はエリカが好きだよ」

エリカ:「ん、ありがと、うん、嬉しい。でもさ、あくまでも私はプレ彼女?的なポジションでいたい、みたいな?」

ダイスケ:「なにそれ?」

エリカ:「あ、そろそろハヅキ帰ってくるから切るね。好きな人できたら言ってね? 恋愛相談とか私でよければいつでも聞くし。ダイスケさん優しいから大丈夫だよ! いつでもお店で待ってるから! じゃあね?」(切る)

(間)

ダイスケ:「あ、……ごめん、こんな時間に。……ううん、なんでもない。……どうしてるかなって。……ううん、平気。大丈夫。……あのさ、頼みあるんだけど。……その、お金、貸してくれない?」


【完】

ドンペリの泡よ消えないで 弐 「気が付かない男」 (1:2)

ドンペリの泡よ消えないで 弐 「気が付かない男」 (1:2)

ドンペリの泡よ消えないでシリーズ キャバ嬢が「彼女」になったと思い込んだ男の物語 上演時間 約45分

  • 小説
  • 短編
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2021-09-25

CC BY-NC-ND
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