私が森だった頃

雪水 雪技

私が森だった頃

信号待ちのかぐや姫

夜風は冷たくなり
月の光はこうこうと
明るくなっていった

ススキの向こうに
動物たちの集会場

眠るような声は
会話のような、
独り言のような…

兎角何かについて
各々が話している

信号機の明かりで
浮世に戻るかぐや姫

つまらないニュースを消して
夜風の運ぶ知らせを聞いて

昨日は二千年前

長い長いお前の言葉に
長く長く返せる秋の夜だ

虫の声に助けられ
俺はこの文字列にありったけを

そう、今、詰め込んでいるから

ずいぶんと長い巻物になった

何世紀かけても
俺の心もお前の心も
理解されないのだから

好きに書けばいいんだ
今夜も拙い熱い思いは

我慢比べの合戦になる

金色の車輪

笑ってごらん
金の車輪は回るだろう

幸運は目の前とは限らない

振り返って泣いてごらん
心に蓋など必要ない

心のままなどあっただろうか

今できることをやっている
何かがある予感だけで

不確かこそ確かなもの

何だそれって、笑ってごらんよ

刺繍された役割

名札を貼られても
心許ない日々だ

何を許されようか

世間の吹かせる風は
肌を切って遊ぶ妖だ

立派な名札にも
心許なく、地面はぶよぶよだ

根付と叫ぶ誰かの怒号が飛ぶ日

参りましょうか、
聞こえないところまで

私が森だった頃

木々に埋もれていく体
私が森だった頃

甘い果実の場所
味の濃い茸の場所

水脈伝いに教えていた

私は生える 私は伸びる
ゆびさきに めぶく命の

ちいさな声も聞き逃さず

私はゆっくり、ゆっくりと

大陸を覆う森林に育ってゆく

嘘つき

うそつきと、胸の中で
いつも誰かに叫んでいた

ある日、
殺風景に
ぽつねんとひとり

うそつき、その声が響いて

私の指は、私に向いていた

もういやだ

泣き崩れても

犯人探しは終わっていて

生真面目な心

上手にまとめられたものが
私をぐるりと取り囲んで
ほほえみながら待っている

私はほほえみを返すけど
冷や汗が止まらなかった

涙が出そうになるのに
理由がないから受理されない

許されたいだけの私
ただの景色に怯えながら

明月の破片

明月の破片が
人々の頭の上に残る
太陽に消される寸前の今朝

月明かりはメトロに咲く

光は私たちをつなぐ
見えない私たちの
大いなる意識媒体

こうこうと大きく開く
月光の最終形態には
誰も気が付かずに

俯いて電子媒体
滑らせ光る指先

とけゆく雨に

雨の日には
緑に溶けよう

心は
真珠のように
無垢になりたい午後

まばらな星と雲
きれいなものは
いつも遠のくから

この雨の日に一緒になろう

私は輪郭も境界も
雨の描く直線と同じになる

さみしいのは過ぎていくから?

いいえ
あまりにも
うつくしく描き過ぎるから

雨間

雨あいをぬって
このゆううつを
天へゆだねよう

深いため息すら
止めてしまって

季節の境目に
窒息する人がいる

呼吸のことは
植物にきいて

生きることは
この星の上に
全てそろって

泣いてよし
笑ってよし
怒ってよし
喜んでよし

心のアンテナと
雨雲レーダーに
従う心象の空がある

風船の理屈

飛来する予感だけ
胸に膨らませて
明日より今日を
笑っていたいよ

思い出に潰される日
膨張する記憶に抱きついて
ここから宇宙のはじまりを
逆算して暇を潰した人類史

星団が浮かぶ炭酸水
一気に飲み干して
泣いてみたりして

簡単じゃないよ
ああ晴れない

深海の公衆電話

深海の公衆電話
非通知は非常識

メガロドンが口を開けて
足りない餌を待ち構えて

大き過ぎることに
疲れてるらしくて

不在時にしか
かからない
海溝通話

電話に溜まる
着信履歴が
ぷかぷかの
泡みたい

海の音ばかり
眠くなる研究室

無いものねだりの陸と海で
地球を回す365日はあと何回?

レモンとサワー

冷蔵庫の中に冷えている
レモン味と私の夢

ねむる朝に凍りついて
混ざり合うシャーベット

強いアルコールを混ぜて
鈴を鳴らすように飲み干せば

私だけの星団が
みずたまりを凍らせる

重力から生まれる無重力の不安

ふあんを浮かべたままに
蓋もしない無重力

赤い風船と黄色の空
私は漂うままになる

もう地上から遠のき

あの子を眠らす
お昼のオルゴール

オレンジの夕焼け
ぐずる私

秋の風鈴

風鈴が鳴る道
秋の音に似せて

納涼より感傷と懐古
積乱雲は未だ育つ

季節の音に乗せたくても
私の置きどころの無さ

かなしいしらべの上に
いつかの思い出を並べて

変わっていったのは誰か
おたがい様と笑う秋の風

追わずに来た季節を
また包む言葉を探して

たよりない旅路に
うたをうたって

つたない履歴

つたないまま
のびていった
背丈と髪の毛

まばらになる
作文の文字に
朱書きされる

どこまでが私か
わからなくなった

模範解答に私が消えていく

大人も子供も
似たようなことで悩んでる

どうすれば諦められるのか

年齢は生存歴
記憶は生存履歴
逆再生した個人的音源
頭痛の果てに朝が来て

アンケート

簡単なアンケートの
項目は難しくて

何がほしいのか
何になりたいの
何を信じているのか
何がわたしであるのか

サポートセンターには
いつもつながらない

いつか自分の番が来ると思って
与えつづけてきた私が答える

私がしたように
そうされたかった

多分それだけ
それ以上なんて無かった

なないろ

虹が見えた日に
願ったことは
七色になり

今この手に戻ってきた

いつまでもこうでありたい

初めてそう思えた日

止まらない日々にも
つまらない日々にも

ようやく光は戻ってくる
指先ひとつプリズムになる

心に通して
すべて七色

それ以上を視て

ありのまま以上の
色彩と光を見ること

言葉以上の言葉を
受け取ること

神経はつかれても
感性はみがかれる

真実以上の真実を
この星の上で見つけて

ようやく描き出す日に
何に感謝をしようか

アリスを追って

幼い日々も今も
やさしい音がする

幼いままの私の手は
夕焼けと朝焼けを掴む

広場に散らばるトランプ
ハートのクイーンを引く日

鏡の向こうの世界に
大人になる私がいて

私は反転して大人になった
私の事実は鏡に映らない

そういうものを集める
そういう人間になる
その道しかない

私が森だった頃

私が森だった頃

  • 自由詩
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-24

Copyrighted
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Copyrighted
  1. 信号待ちのかぐや姫
  2. 昨日は二千年前
  3. 金色の車輪
  4. 刺繍された役割
  5. 私が森だった頃
  6. 嘘つき
  7. 生真面目な心
  8. 明月の破片
  9. とけゆく雨に
  10. 雨間
  11. 風船の理屈
  12. 深海の公衆電話
  13. レモンとサワー
  14. 重力から生まれる無重力の不安
  15. 秋の風鈴
  16. つたない履歴
  17. アンケート
  18. なないろ
  19. それ以上を視て
  20. アリスを追って