モリがみつめるところに、星はなかった。砂の城で、わたしがぬくぬくと平和的に過ごしているあいだに、モリは、帰る星を失った。メメが、いつものように花壇の花を摘み、砂糖漬けにしているときに、わたしは、ひとつの命を宿し、産んで、アルビノのクマに抱かれて眠る、ちいさな生命を慈しみ、あのひとにやさしくされていた。空の彼方では星々が、衝突と、崩壊と、再生を繰り返していて、ただひとり、母星を想って佇んでいたモリは、まるで、丸裸のままで生きる、獣のようだった。
 砂糖漬けの花を、紅茶に浮かべた夜に、あのひとは、わたしと、わたしの血肉をわけた生命を、いつまでも永遠に愛することを誓った。メメは泣いていた。ぼんやりと空をみつめて、紫煙をくゆらすばかりのモリと、メメは、産まれた瞬間から同調しているのだと、わたしは知っていた。ふたりは、精神の双子なので、メメが泣いているのは、モリのせいだった。わたしは、あのひとと、あのこと、メメと、モリと、なにひとつ、かなしいことなどなく暮らせればいいのだ。そこに、だれかひとりの負の感情など、いらなかった。わたしは、わたしのあのこと、あのひとと、みずうみのなかで、月の光を浴びながら、鉄塔の上で寄り添い、夜空をみているメメとモリを、はやく、わたしだけのメメとモリとして、たいせつに、うつくしい状態で、そばにおいておきたいと思った。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-23

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