ありがとう

 これは、私が病院で働いていた時の実体験になります。 これまでに、不思議な体験はたくさんしてきましたが…今回のような体験は初めてだったので忘れないうちに文章として残しておこうと思い書きました。

ありがとう

   ぴっ…ぴっ…(モニターの音)

『申し送りを始めます。305号室に入院されているAさんですが状態が悪くご家族が昨晩より付き添いをされています。』
それを聞いたとき、今日の部屋もち私じゃん…どうか持ちますようになんて心の中で祈っていた。
申し送りが終わり、夜勤業務を開始…夕飯の時間が終わりおむつ交換、点滴交換などの業務を終え記録の入力などをしていた。
21:00ナースコールがあり305号室を訪室した。
Aさんは肺がんで入院された方だった。とても明るく、私たちスタッフにも優しかった。自分が一番つらくて大変なのに
いつも『今日も夜勤なのかい?大変だね。無理するんじゃないよ』そんな言葉をかけてくれた。
面会に来る奥さんもとてもやさしい方だった。
二人とも76歳誕生日も近いらしい、二人で喜寿を迎えたいなんて言っていた。
あと少しなのに、神様…私はいつもいつも祈っていた。
あと2か月で喜寿を迎えられるの…だから、どうか…。
でも、よくなることはなかった。悪化する容態見つかる転移…言葉も発せなくなっていたけどAさんはいつもいつも笑顔だった。

そして喜寿の日を迎えた…本当に職員も家族も奇跡だと思った。
その日私はまた夜勤だった。奥さんから出会いを聞いた。Aさんも照れていた。とても幸せだったんだろうな。
Aさんの手をっぜひ握ってください。点滴をしているから遠慮していたようだ…。奥さんは、また一緒に手をつないでお散歩したいね。
しわくちゃになっちゃったねって、優しく愛おしそうに話しかけていた。Aさんもうなずきながら笑顔で答えていた。

翌朝普段はいうことがないのだが、なんだか言わないといけないような気がしたので
『昨日は素敵な話をありがとうございました。今日の夜また来ますね』といった。
Aさんも奥さんもえがおで『帰るのね、お疲れ様です。またよろしくね』と言ってくれた。

夜勤に備えて寝なくちゃ、帰宅してお風呂に入ったりダラダラして眠りについた。
最後に時計を見たのは14:40だった。

夢を見た。305号室のベットメーキングをしている夢だ。
とても晴れているそらが、窓から見える。風も気持ちがいい。
ふと気づくと私の後ろに、Aさんがいた。
おじぎをして『ありがとう、もういかなくちゃいけないんだ』と。
私は、『Aさんお元気で』と返した。
その時Aさんの後ろには病院で時々見る黒いスーツのような服を着た背の高い男性にも女性にも見える人がいて
その人も私に一礼した。
Aさんは、その人に続いて病室を出て行った。
私は、二人の後ろ姿に一礼したところで目が覚めた。

Aさん…病院に向かう途中ずっと気になっていた。
あまりにもリアルすぎて、温度も感じた不思議な夢。

病院につき情報をとっていると、Aさんが死亡退院されていた。
14時45分

私は、トイレで一人泣いた。
最後に来てくれたんだとうれしさと、もう会えない寂しさからだった。
しかし、婦長から最後家族全員が来て眠るように亡くなったときいた。

その日の空は、夢で見たように快晴で心地の良い風が吹いていた。

ありがとう

病院で働いていると不思議な体験をします。そのなかで、私は今回の体験を怖いと思うこともなく
はたらいていて一番心に残ったありがとうでした。
わたしは、これからもAさんにはじない立派な看護師でいようとおもいます、
それをきっかけに、私は緩和ケア病棟で今は勤務しています。
どうか、最後が悲しいものだけではありませんように。
後悔しない看護をこれからもおこなっていきたいです。

ありがとう

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-23

Copyrighted
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