Aの24
移動する馬車の中でオロチマルが建物を指さした。
「あれがギルド本部です」
馬車が出発してまだ5分も経っていない。
オロチマルが指さす方には同じような建物が隙間なく並んでいて、どの建物の事を言っているのか分からない。
馬車が止まり、オロチマルがドアを開けた。
「さあ、向かいましょう。私が案内しますよ」
「よろしくお願いします……」
ギルド本部の1階はまるで居酒屋だった。広間の中に長いテーブルがいくつも並べられ、ギルドメンバーがそれぞれのテーブルに集まって楽しそうにお喋りしている。
「あっ、オロチマルさん。お疲れ様です」
「隊長。お疲れ様です」
メンバーたちがそう言っている。
広間にいる人のほとんどは青文字ネームのプレイヤーだけど、何人かウエイターのような恰好をした人もいる。彼らはみんな白文字のNPCだった。
オロチマルは窓際のテーブルに近づき、俺を手招きした。
「ハチローさん。さあどうぞ。座って下さい」
俺はオロチマルに言われるまま席についた。
◇
「何か飲みたいものがあれば遠慮なくウエイターに言うと良いですよ」
「はい。ありがとうございます」
オロチマルが俺を紹介した。
「こちらはハチローさんです。先ほど西の大通りで山賊プレイヤーに襲われそうなところを助け出しました」
彼は淡々とした口調でそう言っている。べつに自慢している言い方には聞こえない。しかし周りのメンバーたちは彼を見て目を輝かせている。
「さすがオロチマルさん。一人で救出しちゃうとは……」
「ご苦労様です」
そしてメンバーたちは俺に目を向けた。
「ハチローさん。はじめまして。キノコと申します。プロイセン軍の陸軍少尉をやっています。どうぞよろしく」
べつに名前を言わなくても、頭上に〈キノコ〉と書いてあるのでそれを見れば済む。しかしNPCとは違い、お互いプレイヤー同士なので挨拶は大事だといえる。
オロチマルと比べ、キノコはいかにも軍人らしい身なりをしていて、着ている軍服には階級章も付いている。その隣の人も同じような軍服を着ている。そっちの人も挨拶してきた。
「はじめまして。ヨシヒデと申します。同じく陸軍少尉です。よろしくお願いします」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
俺はヨシヒデと握手した。
よく見たら、キノコのほうは腰に短剣を装着しているし、ヨシヒデのほうも大きくて頑丈そうな剣を背負っている。
周りを見ても武器を装着していないのはウエイターを除いて俺一人しかいない。
( なるほど、軍人系の集まりってわけか )
自分は場違いな存在なのではないかという気持ちが募っていく。
「では、私は上に報告があるので。失礼しますね」
オロチマルはそう言って階段の方へ歩いて行った。
【作者紹介】金城盛一郎、1995年生まれ、那覇市出身
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