Aの23

 俺はようやく背後に目を向けることが出来た。

「大丈夫ですか?」

 痩せた男がこっちに歩いて来る。俺は無意識に相手を睨んだ。その様子を見て、相手は持っていた武器を下ろして立ち止まった。彼はボウガンのような弓の使い手らしい。

「まだゲームを始めたばかりみたいですね。私は山賊ではないですよ。ほら、上に表示されている名前は青ですよ。安心してください」

 そうは言われても。

 どうしても警戒したくなってしまう。先ほどの〈ビッグマラーサトウ〉は明らかにやばい奴だったけれど、こちらの人も怪しさでは負けていない。黒いコートに黒い帽子。その頭上に青い字で〈オロチマル〉と表示されている。

 怪しすぎる相手だけど山賊プレイヤーではないし、助けてもらった恩がある。

 俺は挨拶した。

「助かりました。ありがとうございます」

「いえいえ。お礼なんて要りませんよ。山賊プレイヤーには個人的に恨みがあるので……。私はオロチマルと申します。どうぞよろしく」

「俺はハチローです。よろしく……」

 オロチマルは俺を見て微笑したが、やがて細い路地に目を向けた。

「逃がしてしまいましたね……」

 俺はとりあえず謝った。

「すいません。役に立てなくて……。俺も戦えたら良いのですが」

「いや、あの人とは戦わない方が良いですよ。さっき見たでしょ? 何人も彼に殺されてます。戦闘スキルを持ってるだけじゃ、役に立たないって事ですよ。あの人のスキルはかなり強化されています。私は山賊から何度も逃げ続けて、自分のスキルを強化して、今ようやく戦えるようになりましたよ」

「この街、山賊が多いんですか?」

「いえ。ここはむしろ少ない方ですよ。それよりも周辺の街の方が被害が大きいです。私はギルドメンバーと一緒にニュルンベルクで山賊討伐をして、今ここに戻ったんです。ニュルンベルクの状況はかなりひどいですよ。山賊の巣窟です」

 山賊を討伐しようと考えているプレイヤーは俺だけじゃないらしい。

 ◇ 

「ハチローさんは何のスキルをお持ちですか?」

「……調理スキルです」

「なるほど」

 オロチマルはそう言うと別の方を見て考えるそぶりを見せた。やがて口を開いた。

「ハチローさん。もしよければ私たちのギルドに加入しませんか?」

「すいません。俺はいま副料理人として働いてるので……」

「それは、職業紹介所が用意した仕事ですよね?」

「あ、はい。そうです」

「それはあまり稼げないですよ。NPCの下で働くよりも、ギルドに所属して活動した方が何倍も稼げますよ」

「そうなんですね」

「私もプロイセンの軍人ですけど、そっちの給料よりもギルドからの報酬の方がはるかに多いですよ。軍人は副業って事です」

 俺は興味が出てきた。

「ギルド名はなんて言うのですか?」

「陸軍省と言います」

 オロチマルは自慢げにそう言ったが、俺のほうは気持ちがだいぶ萎えた。

( 地味だな )

 その様子にも気づかずオロチマルが話を続ける。

「もしよければ、ギルド本部を見学してみませんか? そのうえで加入するか決めるのはどうですか?」

 俺は考えてみた。

 この世界のギルドがどんなものか知りたい気持ちもある。

「分かりました。お願いします」

「ありがとうございます。ギルド本部はベルリンの中心部にあります。馬車で向かいましょう」

 オロチマルはそう言った。



【作者紹介】金城盛一郎、1995年生まれ、那覇市出身 

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  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2021-09-23

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